耳を塞ぎたくなるような児童虐待のニュースが後を絶たない。8月に厚生労働省が発表した虐待に関する速報では、平成29年度中に全国210カ所の児童相談所が児童虐待相談として対応した件数は13万3778件と過去最多となった。虐待の内容は、心理的虐待が7万2197件、身体的虐待が3万3223件、ネグレクト(教育の放棄・怠慢)が2万6818件、性的虐待が1540件となっている。心理的虐待、ネグレクトについては、目に見えないため表面化しにくく実際の数はもっと多いと予想される。
近年、虐待のニュースで語られることが多いのが“負の連鎖”である。虐待を受けた子が親になったときに、自分の子を虐待するといったものである。この負の連鎖を断ち切ることが、虐待を防止するために重要であることは明らかだ。
深月事務所代表の深月ユリア氏は、ネグレクトを受け育った。ネグレクトの影響は大きく、幼少期から少女時代までは人とのコミュニケーションがうまくできず、対人恐怖症に悩んだ時期もあった。しかし、ある時、心の変化があり、深月氏はネグレクトで受けた心の傷を自ら克服した。慶応義塾大学法学部を卒業後、タレント、ライター、占いカウンセラーとして活躍し、一方で映画製作やキャスティング会社の運営を行い、人生を大逆転することができたのだ。
ポーランド人の母の孤独
深月氏は、ポーランド人の母と大学物理学教授の日本人の父のもとに生まれた。
「父が仕事のために訪れたポーランドで母と出会い、そのまま母は帰国する父について日本へ来ました。そのときは、2人は燃え上がっていたのだと思いますが、当時の日本は母にとって生きにくい社会で、外国人に対する偏見や差別を感じたようです」
深月氏は、幼稚園や学校に母が来た記憶はないという。
「日本に来て、父以外との人付き合いもなく母はホームシックとなり、ついには精神疾患に苦しむようになりました。ロックが好きだった母は毎日、朝から晩までクラブ音楽を大音量で流し、自分の世界に入り込んでいて私には無関心。食事さえ用意してくれませんでした。食事は父が買ってくるスーパーの弁当や惣菜で、暖かい家庭料理は知らずに育ちました」
しかし、幼かった深月氏は状況を理解することも、助けを求めることもできなかった。
「ネグレクトを受けていた当時の私は、寂しいとか怖いという感情はなく、『無』になっているような感じでした。母に期待することもなく、ただ心を無にしていたように思います」
喘息で顔が腫れ上がり、学校でもいじめに遭う
3歳から重度の喘息を患っていたことで、学校は休みがちだったという。さらに、アトピー性皮膚炎が深月氏を苦しめた。
「喘息の薬の副作用と、毎日スーパーの弁当や惣菜を食べていたことの影響だと思いますが、アレルギーを発症し、アトピー性皮膚炎と喘息になってしまいました。父が病院に連れて行ってくれていたのですが、ステロイドを多量に服用していまいした。ステロイドの副作用で顔が腫れあがり、ひどいときは顔の輪郭がまったくなくなるほどでした」
たまに学校へ行っても、友達から投げかけられる言葉はショッキングなものだった。
「『アトピーが移るからユリアちゃんには近づいちゃダメ』そんな言葉が聞こえてきたときは、本当にショックでしたし、私のいる場所はどこにもないなと思いました。加えて母が『日本の子供は外で土塗れになって遊んでいるから一緒に遊ぶと菌が移り、病気が悪化する』と私を洗脳していました。ほとんどの時間を病院で過ごし外に出ていない私は母の言葉を間に受けていたので、友達はひとりもいませんでした」
減薬で体と心に変化が生まれる
成長とともに免疫力が上がり、アトピーや喘息が少しずつではあるが落ち着いてきた。
「大学になる頃には、自分で薬のことも勉強し、副作用の怖さを知りました。少しずつ減薬していったら、だんだんと自分の本当の顔に戻ってきました。顔の腫れがなくなり、皮膚炎も落ち着いてくるのと同時に、友人と呼べる人も増えてきました。実家に住んでいた頃は、キッチンは母の『プライベートスペース』だったので、近寄ったり冷蔵庫を勝手に開けたりすると怒られるため料理の練習もできませんでしたが、大人になって一人暮らしを始めて自炊するようになってから皮膚炎も完治しました」
自信を取り戻した深月氏は、モデルを始めたのがきっかけで自ら事務所を立ち上げた。
「モデルとして仕事をするなかで、ギャラの半分近くを事務所に取られることに疑問を感じました。また、モデルやタレント仲間のなかには、事務所社長や監督・プロデューサーからセクハラなどを受けたり、枕営業を勧められている人もいたので、憤りを感じ『それなら自分で事務所を始めよう』と考えました」
モデルやタレントをしながらキャスティングの仕事も始めたところ、思った以上に順調に進展した。そんななかで東日本大震災が起き、地震について調査を始めた。
「調べれば調べるほど、陰謀説が真実味を帯びてきました。高周波活性オーロラプログラム(HAARP)により、物理学的には人工地震が起こせます。かの有名な天才科学者ニコラ・テスラの研究技術を応用したものです。3.11の前夜に大きな電磁波がHAARPモニターに現れ、震源地近辺でプラズマが観測された、という報告があります。また、自然地震はP波(縦揺れ)があってからS波(横揺れ)がありますが、3.11ではP波がなかったんですよね。そして、3.11をまるで事前に予測するかのように、一部の建設株は地震直前に大量に購入されているんです」
人工地震というテーマが話題となり、多くのメディアで取り上げられた。作家としての才能も開花し、現在も書籍はじめ多くのメデイアで執筆をしている。
「理不尽なことや、誰かが苦しんでいる話を聞くと、何か力になれないかと考えるのがクセのようなもの。私が発信することで何かを変えられたらという気持ちで執筆をしています」
ネグレクトの深い傷
母からのネグレクトを受けていた深月氏は、特に幼少期の頃のことを覚えていないという。
「多分、つらすぎて防御反応で忘れているんだと思います」
ネグレクトの記憶は完全に消せるものではないが、母から離れ、自分の人生を歩み出した頃から母を許し、乗り越えることができた。
「今こうしていろいろなことに挑戦できるのも、母が私を産んでくれたからこそ。それだけで十分です。私は母から生まれてきましたが、私と母は別人格で別個性、モノサシが異なるのは当たり前です。『私の人生は私のもの』と開き直ってみたら、心が落ち着きを取り戻しました。いま、占いカウンセラーの仕事もしていますが、昔の苦しい経験のおかげで、私と同じような毒親による傷を持つ方々が自分らしく生きられるようアドバイスできるようになったことを誇りに思います」
児童虐待をはじめ、社会問題を解決していきたいと願う深月氏が次に目指すものは、政治の世界だ。出馬に向けて準備を整えているという深月氏の、さらなる活躍が楽しみである。
(文=道明寺美清/ライター)