“新聞業界のドン”動く!堕落の巣窟となった巨大新聞社、悪の元凶追放への秘策とは?
業界最大手の大都新聞社の深井宣光は、特別背任事件をスクープ、報道協会賞を受賞したが、堕落しきった経営陣から“追い出し部屋”ならぬ“座敷牢”に左遷され、飼い殺し状態のまま定年を迎えた。今は嘱託として、日本報道協会傘下の日本ジャーナリズム研究所(ジャナ研)で平凡な日常を送っていた。そこへ匿名の封書が届いた。ジャーナリズムの危機的な現状に対し、ジャーナリストとしての再起を促す手紙だった。そして同じ封書が、もう一人の首席研究員、吉須晃人にも届いていた。その直後、新聞業界のドン太郎丸嘉一から2人は呼び出された。
吉須晃人が苦笑いしながら、「すげの」の若女将を見つめた。
「…お主たち、顔見知りなんかいのう?」
びっくりしたような面持ちの太郎丸嘉一が自分の左側に座った吉須と若女将を交々みつめた。
「こちらの方は初めてですけど、スーさんは以前によくお見えでした。そうですよね」
太郎丸の正面の席で焼酎のお湯割りを作っていた若女将が手を止めた。そして、太郎丸の右側から炬燵に足を入れた深井宣光の方に手を向けた後、おもむろに吉須に目をやった。
「15年以上前のことです。新橋演舞場の近くだったね。ここに来たのは初めてだよ」
若女将が頷くと、吉須が続けた。
「場所は違うけど、名前が同じなんでひょっとしたら、と思っていたんだ。当時は、若女将は女将の手伝いで時たま座敷に出入りしていただけだったような気がするけど、今は逆転しているんだね。それにしても、若女将は若い。当時と全く変わっていない」
「何を言うのよ。お世辞なんてやめて」
若女将は吉須のリップサービスに少し頬を赤らめ、手を振った。
「冗談はさておき、当時は先代の女将も挨拶に姿を見せることがあったけど…」
「老女将のことですね。10年前に亡くなりました。それから私も手伝いじゃなくて、女将の母と一緒に店をやるようになったんです。母も75歳ですから、今は私が切り盛りして、母は当時の先代のような役割です」
「若女将、吉須君がなんでスーさんなんじゃ」
突然、太郎丸が口を挟んだ。
「スーさんをよくお連れになった大銀行の頭取さんが“よしすちゃん”と呼んでいたんですけど、“よし”が聞き取れなくて、芸者さんがスーさんと呼ぶようになったんです」
「ふむ。吉須君も若い頃からこういう“隠れ家”みたいなところに出入りしちょったんじゃから、なかなかのものじゃ。わしの眼鏡に狂いはなかったのう」
太郎丸はハハハと大声を上げ、笑った。
「さあ、そろそろお暇しないといけませんね」
話が本題に入りそうな気配を感じたのか、若女将はグラスに作った焼酎のお湯割りとビールグラスを炬燵台の三人の前に並べ、立ち上がった。そして、焼酎のボトルなどを載せたお盆は吉須、ビール瓶を入れた籠は深井の脇の畳に置いた。
「ビールの追加が必要な時は声を掛けてください」
部屋を出るとき、若女将はそう声をかけ、唐紙を閉めた。