“新聞業界のドン”動く!堕落の巣窟となった巨大新聞社、悪の元凶追放への秘策とは?
「おい、最初はビールを一杯飲まんかいのう。あとはお湯割りじゃ。深井君はビールを飲みたいんじゃったら手酌でやってくれや」
太郎丸が促すと、深井が脇の籠からビール瓶を取り上げ、太郎丸、吉須晃人の順に注いだ。
「よし、また乾杯しよるぞ」
太郎丸がグラスを上げると、吉須と深井の二人もグラスを口に運んだ。
「じゃあな、今、わしがやっちょっることを話しちゃる。実はのう、大都社長の松野(弥介)君と日亜社長の村尾(倫郎)君の不倫スキャンダルを白日の下に晒し、引責辞任に追い込むんじゃ。ほぼ目途はついちょる。あとはタイミングだけじゃ」
顔を見合わせただけで声が出ない二人の反応に、太郎丸はニンマリして続けた。
「実はな、10日ほど前から探偵を使いよって、松野君と村尾君の行動を追跡しちょる。すでに何枚か、不倫の証拠になりよる写真を撮っちょる。それでじゃな、二人を新聞業界から追放しよるんじゃ。堕落の巣窟(そうくつ)は大都と日亜の2社じゃけんのう。そこから、腐敗の元凶がおらんようにしよれば、一歩前進じゃろう。どうじゃ、わしの作戦?」
吉須と深井の二人はうつむき加減に考え込んだ。そして、吉須はお湯割りのグラスを取り、口をつけた。深井も脇に置いたビール瓶を取り上げ、自分のグラスに注いだ。
「おい、お主ら、どう思うちょるんじゃ?」
黙りこくっている二人に業を煮やした太郎丸が促すと、ようやく吉須が口を開いた。
「大都さんは知らないけど、うちに限れば村尾を追放しても駄目ですね。ろくな奴いないんです。辞めた奴を戻せば別ですが、そんなの無理ですよ。深井君、大都はどうだい?」
「ふむ。そうですね、うちも日亜さんと同じです。松野だけ追放しても無理です」
「なんじゃ、そんなことか。わかっちょる。新聞社の要でなきゃいかん両社の取締役編集局長も女性スキャンダルを抱えちょることじゃな。二人ともお主らの同世代じゃな。写真は撮らんが、道づれにしよるつもりじゃ」
大都の北川常夫、日亜の小山成雄の二人のことである。昭和49年入社の北川が吉須の1年下、深井の同期、50年入社の小山はそれぞれ2年、1年下だった。二人の不倫スキャンダルは20年前後前の話だが、業界では“知る人ぞ知る”話だった。
「あの二人もそうですが、その取り巻きを含め一派を一掃しないと…。一掃しても、今度は後をやる奴がいません」
「あとをやりよる奴はいくらでもおるぞ。お主らだってええんじゃ。とにかく、蟻の一穴じゃよ。二人を追放しよれば、動きよる。そう思わんか」
少し不機嫌になった太郎丸が反論した。
「会長が本気なことはわかります。探偵まで使ってスキャンダルを暴こうっていうんですから。僕はやってみる意味がないといっているんじゃないんです。それだけではどうにもならないほど、腐っていると言っているんです。な、深井君」
「そうです。松野と村尾さんの二人を放逐することができれば、一歩前進です。でも、探偵に調べさせて写真を撮らせたくらいじゃ、どうにもならんじゃないですか」
深井も疑問を呈すると、太郎丸が即座に答えた。
「探偵に調べさせよるだけじゃないんじゃ。探偵が撮りよった写真は写真週刊誌『深層キャッチ』に載せる手筈(てはず)になっちょるんじゃ」
「え、『深層キャッチ』が取り上げるんですか。うちの松野にしても日亜の村尾さんにしても世間の人は誰も知りませんよ。二人ともニュースバリューがないのをこれ幸いと、好き放題やって会社を壊しているんです。世間で知らない人がいない、と言ってもいい著名な会長の不倫なら、週刊誌や写真週刊誌が競って写真を入手するでしょうけど…」
深井が皮肉っぽく笑うと、太郎丸は「そんなことはわかっちょる。じゃから、『手筈を整えている』と言っちょるんじゃ」と、破顔一笑して続けた。