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借金を踏み倒し続けたらどうなるのか…借金まみれの“エクストリーム層”

取材・文=春川賢太郎/エクストリーム大家、文筆家
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借金まみれのエクストリーム層
「Getty Images」より

 生活保護受給者に金融信用情報ブラック、刑務所帰り、DV逃避世帯といった、「家を借りたくても借りられない」人たちのことをエクストリーム層と呼ぶ。そんなエクストリーム層は借金とも親和性が高い。借金を踏み倒し続けた人物のその後はどうなるのだろうか。

 いつの時代でも、どんな社会でもカネの問題で悩む人は後を絶たない。たしかにカネは大事だ。だが、されどカネだ。ある弁護士は言った。「事の大小を問わず、カネの問題で解決できないことはない」――、と。

 はたしてそうだろうか。そんなカネ、とりわけ借金をめぐる最前線ともいえる現状をお伝えしたい。

今なお後を絶たない、「経済・生活苦」を理由とする自殺

 政府による2023年版の『自殺対策白書』によると、2022年の自殺者は2万1881人だった。職業別でみると、「無職者」が1万1775人で全体の約半数を占めている。「有職者」は8576人で全体の約4割である。

 これを見る限りでは、職の有る・無しは自殺と因果関係があまりないのかもしれない。重要なのは自殺に至った動機だ。

 その自殺の動機や原因でもっとも多いのは「健康問題」の1万2774人。次いで「家庭問題」の4775人、カネの問題である「経済・生活問題」は4697人である。

 こうしてみると、人が自ら命を絶つ決定的な理由は、家庭不和や経済・生活、すなわちカネの問題よりも、自身の健康問題のほうが大きいといえよう。

 もっとも、これら自殺の原因・動機は、単に「健康だけ」「カネの問題のみで」という単純なものではない。そもそもが家庭不和で、そこにカネの問題が重なり、健康不安が生じ、自ら人生の幕を閉じたというケースもあろう。

 注目すべきは、自殺の原因・動機における順位だ。健康や家庭問題よりも、経済・生活苦、すなわちカネの問題は下位に位置づけられている。

 この順位は、人が生きていくうえで大切にしなければならないことを私たちに教えてくれるような気がするといえば言い過ぎだろうか。

 そうはいっても、誰しもカネの問題で悩みを抱えたなら、年齢、健康状態を問わず、大抵の者は気が滅入り、何かをしようにも気力が萎えるものだ。

 税金に家賃、水道、電気、ガスといった公共料金の支払い、住宅や自家用車のローン、消費者金融からの借入、親族、友人、知人、職場といったところからの個人的な借入もあれば、裁判で確定した損害賠償金の支払いで悩んでいる向きもあろう。

 だが、カネのトラブルを抱えているにもかかわらず、なんら気に病んでいない者も世の中にはいる。特に筆者が普段、相手にしている“エクストリーム層”がそうだ。

借金踏み倒しが日常のエクストリーム層

 エクストリーム層とは、生活保護受給者に金融信用情報ブラック、刑務所帰り、DV逃避世帯といった、「家を借りたくても借りられない」人たちのことだ。そうした人たちに家を貸すことを生業のひとつとしている筆者は、いわば“エクストリーム大家”だ。最近では不動産業界でも、「エクストリームの人だけれども入居可か?」といった具合に用いられるようになってきた。

 そんなエクストリーム層は、カネ、なかでも借金と親和性が高い。エクストリーム大家である筆者は、元入居者が退去後に郵便局へ転居届を出さなかったことから、その元入伽宛ての郵便物を整理することが多々あるが、そのなかには借金絡みのものも少なくない。

 そうした案件の郵便物はすぐにわかる。「督促状」「催告状」「最終予告」といった大きな文字が踊っているからだ。そして封筒は、黄色、オレンジ、赤、黒などの目立つ色が多く、なかには黒と黄色というケバケバしい色もある。

 これら封筒、もしくはハガキは、その中を見ずとも、そこに書かれている内容はおよそ察しがつく。

「いついつまでにいくら支払って下さい」「いついつまでに支払いがない場合、やむを得ず強制執行を行うほかありません」――。およそこういった督促だ。筆者は何度か、元の入居者や今居る入居者に、こういった郵便物の中を見せてっもらったことがある。

 消費者金融やカード会社のなかには、封筒を開けると、公共料金の払い込み票のようなものが入っていて、そのまま支払いができるよう工夫されているところもある。こうした郵便物が届くと、一般的には気が滅入る人が多いだろう。ましてや、返すあてがなければ、なおさらである。

 しかし、エクストリーム層は、こうした郵便物が届いても、なんら意に介す様子がない。

「大家さん、それ、悪いけど捨てといて――」

 大抵は、この一言で終わる。膨れ上がった債務を整理しよう、頑張って働いて返そう、という思考は皆無だ。

取り立てや催促は、すべて無視

 筆者は入居者たちに、「消費者金融、カードローン、クレジットカード、後払いアプリなど、支払わなかったらどうなる?」と、聞いたことがある。

 正社員として会社勤めをしているものの、金融信用情報でいわゆる“ブラックリスト”に入っている40代男性は、この問いにこう応えた。

「どうにもなりません。だって無い袖は振れませんよ」

 この男性曰く、消費者金融などの借入を返せなかった場合の流れは、概ね、以下のようになるという。

 まず支払日に振込や口座引き落としができなかった場合、この支払日は何もない。その翌日ないし翌々日から、電話、メール、郵便物などで催促がある。ある社は電話もメールもない代わりに、郵便物のみ。また別のある社は電話のみ。さらにまたある会社はメールと電話の合わせ技とだという。

「メールは読まなければいいです。電話は出なければいいです。郵便物は捨てておけばいいです」

 男性は極めて冷静に、淡々とこう話す。そして、さらにこう続けた。

「電話なら出ずに、電話番号をネットで検索します。でも着信拒否はいけません」

 電話に出ないのなら、なぜ着信拒否にしないのか。それは消費者金融やカード会社側からみると、「着信拒否された=本人が反応した」ということになる。

 消費者金融などの側からすれば、完全とはいいがたいが、電話の応答主は負債を延滞している本人である可能性が高いという判断をせざるを得ないだろう。

「だから着信はしても出ない。ずっと放置です。すると延々と掛かってきます」

 もっとも、それも3カ月程度だという。これを過ぎると、サービサーと呼ばれる債権回収会社や弁護士からの催促へと変わる。

「額にもよりますが、3万円から100万円以内だと、弁護士からの催促が多いという印象です。それ以上だとサービサーからの連絡が多いように思えます」

 消費者金融などが弁護士へ委託し、それでも支払いをしない場合、最終的にはサービサーへと移行するか、その借財などの額が60万円以下だと少額訴訟、140万円以下であれば簡易訴訟で解決を図ろうとする。

「裁判といっても、書面でのやり取りですぐ判決が出ます。毎月いくらずつ支払うとか、そういう判決が出ます」

 これは司法の判断だ。判決には従わなければならない。判決が出る、すなわち「債務名義」を取られた状態となると、消費者金融などの側は強制力――差し押さえといった手段での取り立ても可能だ。

差し押さえの多くは「銀行口座にある預貯金」がほとんど

 だが、それでも支払えない場合は、実際のところ、どうなるのか。

「それは、どうにもなりません。ある銀行系のローン会社と著名なカード会社は、実際に差し押さえてきましたよ」

「差し押さえ」と聞くと、なかには自宅に執行官という役職の裁判所の職員がやって来て、家財道具一式に赤い紙を貼っていくといった様子を思い浮かべる人もいるかもしれないが、今の時代は、そうした「動産執行」を行うことは、ほとんどないという。その代わりに行われるのが、「預貯金の差し押さえ」だ。

 実際、この「預貯金の差し押さえ」は、よく行われている取り立ての手法で、多くの金融会社やカード会社、サービサーで用いられている。ゆうちょ銀行をはじめとする各銀行口座の預貯金を差し押さえるという、至ってシンプルな取り立てだ。

 この取り立てに「返せない借り手」は、あらかじめ預貯金通帳をカラにしておく――という方法で対抗するそうだ。事実、これは債務者側についた弁護士も行うことが多い、古典的でオーソドックスな対抗手段である。

差し押さえられるカネもない場合、消費者金融はどう動くのか

 ここで「返せない借り手」が気になるのは、「預貯金の差し押さえ」がされた後のことである。

「預貯金通帳額0円でもいいですが、私は10円から300円くらい残しておいたほうがいいと考えます。相手方、すなわち消費者金融などの側への配慮という感じです」

 男性によると、10円という少額でも、「差し押さえられた」という事実があれば、消費者金融などの側も、「この人の通帳残高はいつでもこのくらいの金額しかない」と理解し、その後の取り立てや差し押さえを控える理由づけになるという。

 実際のところはどうか。借金問題に詳しい弁護士、元消費者金融社員らの話を総合すると、「預金残高がいくらかは関係なく、貸した額に達するまで何度でも差し押さえる」というのが建て前のようだ。

 建て前があれば本音がある。これは消費者金融やカード会社側の立場に立って考えてみるとわかりやすい。要は企業である。いつまでも「返ってこないカネ=不良債権」を抱えているわけにはいかない、ということは読者ならずとも察しのつくはずだ。

「裁判までして、預金を差し押さえて、それでも取れないとなると、どこまで営利目的の企業として、その不良債権を追いかけて、得られるものがあるのか」

 元消費者金融社員は、こう語って口を閉ざす。事実、差し押さえを行い、それでも取り立てられないとなると、貸し金の額にもよるが、正規の貸金業者であれば、もうそれ以上の深追いはしないというのが実際のところのようだ。前出の元消費者金融社員は言う。

「もっとも、そうして踏み倒した人は、もうどこからも融資の類は受けられません」

 過去、消費者金融やカード会社からの借金を踏み倒した経験のある者によると、概ね、預貯金口座の差し押さえられた後、「差し押さえの取り下げ」の連絡が裁判所からくると、再度、消費者金融などの業者から、差し押さえといった措置が取られることは、近年では、あまりないそうだ。

 これを「逃げ得」と考える人もいるかもしれないが、今後、一切の融資やローンをはじめ、カード利用もできなくなるので、生活面での苦労は計り知れない。

「再起したいと思い、銀行などに行っても相手にしてくれません。踏み倒してから10年以上たっているのにですよ」

 こう語る男性だが、特段、気落ちしているといった感じでもない。ただただ、「もうどこからも借り入れならない」という事実を受け入れているといった風である。

踏み倒し、区切りなければ、いつまでもカネ借りられず

 たしかに再起を考え、事業を起こしたい、自宅や車を購入したい、いざ病気になっても治療費もままならない境遇は、ごく普通に暮らしている人からみると厳しいものがあるだろう。ことカネに関することでは、“陽の当たる場所”を歩けない状態といったところか。

 陽の当たらない場を歩き続ける人生といえば、思い浮かぶのが逃亡犯だ。借金かカードローンなどの踏み倒しも、ある意味では逃亡犯と言えなくもない。

 その逃亡犯について、先月、驚くべきニュースが世を駆け巡った。1970年代、三菱重工業ビル爆破事件への関与が疑われている過激派「東アジア反日武装戦線」のメンバー、桐島聡容疑者の身柄が確保された。

 時間がたつにつれ、その50年にわたる逃亡劇の詳報が明らかになってきた。地元社会に溶け込み、行きつけの音楽バーのライブでは、時に「イェイイェイイェイ」と盛り上げるなど、意外にも楽しみを見いだしながらの逃亡生活だったようだ。

 カネ、借金からの逃亡も、エクストリーム層に属するうちの入居者たちを見ていると、桐島容疑者同様、厳しく苦しいなかでも、案外、楽しく日々を過ごしているようにみえる。

 だが、区切りをつけないせいか、何十年も「どこからも借り入れ不可」の状態が続く。その間、可能性は限りなく低いのかもしれないが、強制執行の可能性に怯えなければならない。

 やはりどこかで区切りをつけて、人生をやり直すほうが、より良い人生を送れるのではないか。大事なのは何事も逃げずに向き合うことだ。

(取材・文=春川賢太郎/エクストリーム大家、文筆家)

春川賢太郎/エクストリーム大家、文筆家

春川賢太郎/エクストリーム大家、文筆家

1971年兵庫県生まれ。2010年頃、ボロ家を購入し大家デビュー。2018年、生活保護受給者などを対象とした不動産賃貸を行っていた実母の死に伴い、これを相続。本格的にエクストリーム大家としての日々が始まる。本業はライター、経済ジャーナリスト。本名では『AERA』(朝日新聞出版)、『週刊ダイヤモンド』『ダイヤモンド・オンライン』(以上、ダイヤモンド社)、『現代ビジネス』(講談社)などの週刊誌、ウェブメディアに寄稿。著書多数。

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