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住宅ジャーナリスト・山下和之の目

世田谷区・経堂、住宅地価上昇1位の人気の理由…足立区・葛飾区の一部は下降

文=山下和之/住宅ジャーナリスト
世田谷区・経堂、住宅地価上昇1位の人気の理由…足立区・葛飾区の一部は下降の画像1
東京都世田谷区・経堂駅直結の経堂コルティ(「Wikipedia」より/Yoshihisa Ozaki

 地価の上昇が続き、マンションなどの不動産価格も上がり続けているものの、エリア別には違いがみられるようになってきました。これからマイホーム購入を場所選びから始めようと考えている人は、エリア別の地価動向をシッカリと見極めて、将来性のある場所を選択したいところです。

ジワジワと天井感が強まっている

 不動産情報サイトの「ノムコム」を運営する野村不動産ソリューションズでは、四半期に一度「住宅地価格調査」を実施しています。公的指標としての「公示地価」「基準地価」は、全国の調査地点を網羅して平均的数値を出していますから、大都市圏からみると、上昇率などが実態とかなり違っているのではないかという印象があります。

 それに対して、ノムコムの「住宅地価格調査」は、野村不動産ソリューションズの仲介店舗である「野村の仲介+(PLUS)」の営業エリアにおいて、調査地点を選択、通常取引を想定して実勢価格を査定、その結果を要約しています。不動産仲介店舗のある、取引の盛んなエリアでの実態調査ですから、より実情に則したデータということができるでしょう。これから住まい選びをスタート、まずはエリア選びから始めようとする人にとっては、たいへん参考になるデータではないでしょうか。

全般的にジワジワと天井感が強まっている

 その「住宅地価格調査」は四半期に一度実施されており、2023年10月1日時点の調査結果が公表されました。首都圏の調査結果の推移表が図表1です。首都圏全体では、前年同期比の上昇率が0.8%でした。首都圏全体の前年同期比が上昇したのは、2020年第4四半期から13期連続になります。つまり、3年以上首都圏の地価が上がり続けていることになります。特に、東京都下・埼玉県・千葉県の東京都心に近い地点での価格上昇が目立っているようです。

 首都圏のエリア別にみると、東京都区部の上昇率は0.7%でした。首都圏全体と同様に、13期連続での上昇になりますが、野村不動産ソリューションズでは「ただし、調査地点の動向をみると、値上がり地点の減少と値下がり地点の増加により、天井感が増しています」としています。

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(資料:野村不動産ソリューションズ「ノムコム」)

足立区・葛飾区の調査地点では下落傾向

 つまり、平均すると値上がりしているとはいえ、これまでのように一律に、一本調子に地価が値上がりするのではなく、エリアによって値上がり、値下がりのバラツキが見られるようになっているということです。場所選びは十分に注意して行う必要が出てきます。

 東京23区のなかでも都心5区は、富裕層などの強いニーズを背景に、渋谷区・港区・新宿区の調査地点で価格が高騰し、東京23区、ひいては首都圏全般の上昇を牽引しています。その周辺の文京区・目黒区、住環境が良好なエリアが多い世田谷区などの地点についても引き続き地価上昇が続いています。それらのエリアに比べて比較的地価水準が低く、値頃感のある大田区・板橋区・江東区の地点でも上昇が目立っています。ただ、その一方で、足立区・葛飾区の調査地点では下落がみられるようになってきました。価格上昇に対応できない購入検討者が増加しており、東京都区部の上昇率低下をもたらしているとしています。

経堂の年間上昇率は17.9%、碑文谷は17.4%

 調査地点別の地価の年間上昇率をみると、図表2にあるように、世田谷区経堂3丁目が17.9%のアップで、次いで目黒区碑文谷4丁目が17.4%の上昇となっています。この2地点のみ17%台で、3位以下は14%台以下となっていて、かなり差がついています。

 上昇率トップの経堂3丁目は、小田急小田原線の経堂駅の北側にあって、駅前の喧騒から少し離れた閑静な住宅地です。経堂駅は小田急の快速急行は停まりませんが、急行、準急、各駅停車を利用でき、新宿駅までは急行で約12分。下北沢駅で京王井の頭線に乗り換えれば渋谷駅も10分ほどですし、代々木上原駅で東京メトロ千代田線に乗り換えることで、表参道駅や霞が関駅、大手町駅などの都心のビジネス街にも簡単にアクセスが可能です。駅周辺には複数の商店街が形成され、若者を中心に活気のある街並みが形成されていましたが、狭い道や一方通行区間が多く、クルマが通り抜ける際の難所となっていて、タクシー運転手の世界では、「経堂迷路」と呼ばれていました。それが、駅前に2011年に小田急が開発した「経堂コルティ」が竣工して、飛躍的に利便性が向上し、街並みもスッキリしました。

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(資料:野村不動産ソリューションズ「ノムコム」)

世田谷区のなかでも人口増加著しい経堂

 近くに東京農業大学のキャンパスがあり、農大通りには、学生向けの安くてボリュームのあるお店も多く、チェーン店ではないおしゃれなコーヒースタンド、素材にこだわったクレープ屋さん、たい焼き屋さんなどもあって、グルメを楽しむことができます。また、駅から少し離れると緑が多く、若い人たちだけでなく、子育て中のファミリー層からも人気を集めています。農大通りを南に進むと烏山川緑道が7km続き、四季折々の自然を楽しむことができます。近くには世田谷城址公園、松陰神社、太子堂円泉寺など、由緒ある神社仏閣も多く、文化の香りもあるエリアということができます。

 経堂のある世田谷区は人口増加が続いていて、2035年まで増加が続き、早晩100万人を超えるという推計もあります。政令指定都市並みの規模です。これまでは比較的人口密度の低かった区の西側(郊外寄り)の増加が目立っていましたが、近年は東側(都心寄り)の地域で増加が目立っています。区の資料によると、経堂は世田谷区のなかでも人口増加が著しい地域の2番目に挙がっています。街並みの整備、それにともなう人口の増加によって注目度が高まり、それが地価を押し上げているのではないでしょうか。

高額マンションや戸建住宅の開発も

 そんな注目度の高さもあって、経堂駅周辺では、高額マンションや高額戸建住宅の開発が盛んになっています。大規模マンションを建設するだけの広い敷地の確保は難しいため、マンションは小規模、中規模物件が中心で、さらに小さな敷地では5戸から10戸程度の建売住宅の開発が行われています。

 マンションでは、上層階のプレミアム住戸では億ションに近い価格帯になり、戸建住宅では、敷地面積の広めの物件だとやはり1億円近い高額物件になります。それでも、「世田谷に住みたい」「経堂に住みたい」という人が少なくなく、売り出せばすぐにお客がついて完売している物件が多いようです。そうした人気が続いているため、地価の上昇率も高くなるわけで、当面、経堂エリアの地価上昇が続くことになるのではないでしょうか。

足立区や葛飾区では地価が下落しているエリアも

 地価が著しく上がっているエリアがある一方、下がっているエリアもあるので注意が必要です。先の図表2にあるように、葛飾区お花茶屋1丁目と、足立区千住旭町は前年比3.2%の下落となっています。千住旭町は、JR常磐線・東武伊勢崎線などの北千住駅の東側に広がっていますが、東京電機大学のキャンパス開設などでかつての下町エリアのイメージから、若者も注目するエリアに変貌、住宅地としての人気が高まり、地価も大きく上がりました。しかし、実力以上に上がり過ぎため、その反動がきているのかもしれません。

 一時的な反動に過ぎないのか、当分下落が続くのか、今後の動向については慎重な判断が必要でしょう。このように、地価の上昇が続いているといっても、上がり方は一律ではありませんし、エリアによっては下がっているところもあります。場所選びから始める人は、エリアの地価動向をきめ細かくチェックする必要がありそうです。

(文=山下和之/住宅ジャーナリスト)

山下和之/住宅ジャーナリスト

山下和之/住宅ジャーナリスト

1952年生まれ。住宅・不動産分野を中心に、新聞・雑誌・単行本・ポータルサイトの取材・原稿制作のほか、各種講演・メディア出演など広範に活動。主な著書に『マイホーム購入トクする資金プランと税金対策』(執筆監修・学研プラス)などがある。日刊ゲンダイ編集で、山下が執筆した講談社ムック『はじめてのマンション購入 成功させる完全ガイド』が2021年5月11日に発売された。


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