そもそも日本の人口が減っているから、という理由ではない。20~70代の全年代にわたって餅の消費量は減っているのだ。全国餅工業協同組合の調べによると、世帯購入数量は2005年が2688グラムだったものが、11年には2463グラムに減少。わずか6年で10%も減少し、その後も減少し続けている。
餅が食べられなくなった理由はさまざまだが、日本人の自国文化へのこだわりが希薄になってきたことが最大の理由であると筆者は考える。
ある「餅つき」イベントに参加した時、こんなことがあった。つきたての餅が参加者に配られたが、若い母親が子供の持っている餅を取り上げて「まだ食べちゃダメだよ」と言う。どういうことかと様子を見ていたら、母親は続けて「餅は喉に詰まっちゃうんだよ。死んじゃうよ」と言い、近くにいた高齢女性も「そうだね。私も気をつけているよ」と言っていた。
「餅」はそもそも民俗学でいうハレの日の食べ物であり、餅を食べることで神の霊力を体内に迎え生命力の再生と補強を願うという趣意が、正月に餅を食べるという日本文化の根底にあった。しかし、この餅文化も今や風前の灯である。
よく考えてみれば、昔ながらの正月の風習が姿を消してきていることに気づく。年賀状を出す人も年々減少している。年賀状は04年の44億5900万枚をピークに、毎年1億枚のペースで減少し、13年は約35億枚まで落ち込んでいる。筆者自身も数年前から年賀状を出さなくなった。04年が分岐点となっているのは、ITの普及による電子メールの定着があるのだろう。
日本の風習が変化してきているのは正月だけではない。
●変貌するクリスマスにお正月
少し前の話になるが、クリスマスの過ごし方も年々変化してきている。1980年代後半~90年代初頭のバブル時代は、「クリスマスは恋人と過ごす」というムードが広がったが、最近では家族と一緒に過ごす日となりつつある。
インターネット調査会社・マクロミルの調査(「年末年始の過ごし方に関する調査」)では、クリスマスに「家族と一緒に過ごす」と答えた人が約30%で、「配偶者と二人きり」「恋人と一緒に過ごす」と答えた人は10%前後にとどまっている。
また、同社の調査データ「MACROMILL WEEKLY INDEX」の「買う予定のもの」>「家族との外食」を見ていただきたい。年末年始に「家族との外食」が増えていることに気付くだろう。逆に恋愛の高まりの指標となるといわれる「化粧品」は変化がない。ここにも端的に行動の変化が現れている。
クリスマスから正月の年末年始の過ごし方は、年々「平日化」してきていると筆者は考える。特別な日ではなく、いつもの日常と同じ感覚で過ごせる、平日と同じ感覚に近づいてきているのだ。
もしかしたら商業的イベントとして仕掛けられた側面が大きかった年末年始が、本来の家族中心の落ち着いた休日へと戻ってきているのかもしれない。読者のみなさんは、いかがだろうか?
(文=鈴木領一/ビジネス・プロデューサー)