ただ、このような方法では、同性カップルの一方のDNAをほんのわずかに注入することができるというだけで、99.9999%のDNAを持つパートナーのクローンと、形質としてそれほど差のある子どもは生まれてこないでしょう。ですからこの方法は、どちらかというと気持ちの問題になると思います。
まとめますと、現時点でこの技術は可能と考えられます。ただし、体細胞クローンをつくることになるので、法律が禁止しています(以下の2つの技術も同じです)。
●染色体を核に注入する
(2)減数分裂後の染色体を強制的に細胞の核に入れる方法
次に考えたのは、男性カップルの場合は双方の精子、女性カップルの場合は双方の卵子から、減数分裂後の染色体を取り出して一つの核に注入し、あとは体細胞クローンの製造と同じプロセスを行うという方法です。
要するに、同性カップルの染色体(減数分裂後)の、力ずくの合体方式です。体細胞クローン羊のドリーは、核をすりかえた後、電気ショックを与えることで再活性化できたのですから、2つの染色体を一つの核に叩き込むことさえできれば、原理的には可能なのではないかと考えて調べてみました。
この方法は、染色体を抽出するのも注入するのもDNAを激しく傷付ける可能性があり、染色体のペアの位置を同定することは相当に難しいだろうと予想はしていました。結果としては、同性カップルの染色体を一つの核に入れたという研究成果を見つけることはできませんでした。
しかし、そのプロセスで、すごい研究発表を見つけてしまいました。
独立行政法人「医薬基盤研究所」などの研究チームが、ヒトの卵子から染色体だけ取り出して、別の卵子の染色体と置き換え、体外受精させることに成功したというものです。
この技術を応用すると、高齢女性の卵子の染色体を、染色体を抜き取った別の若い女性の卵子に入れる「卵子の若返り」が可能となり、若返った卵子でできた受精卵を子宮に戻せば、高齢女性も妊娠できる可能性が高まります。
唖然としました。確かに卵子は老化しますが、卵子のDNA情報が老化するわけではないのです。古いパソコンからハードディスクだけを取り出して、新しいパソコンで使うことと理屈は同じです。
この方法と、私が提案する体細胞の核の染色体を入れ替える方法は同じではないと思いますが、将来は、体細胞クローンの技術と併せて染色体を力ずくで抽出・注入する「同性間における体外受精」とでも呼べるような技術が可能になるかもしれません。
しかし、現時点で、この技術のめどはまったく立っていません。