●iPS細胞によるDNAの初期化
(3)iPS細胞を使う方法
「iPS細胞を使えば、男性から卵子、女性から精子をつくるのも可能となり、同性配偶による子の誕生も可能にする」との記載が散見されますが、私は納得できませんでした(http://ja.wikipedia.org/wiki/人工多能性幹細胞)。
iPS細胞技術の最大の特徴は、前回記事『同性間で子どもをつくることはできる?検証のための基礎知識~iPS、ES細胞』でご説明した通り、「DNAの初期化」にあります。
本来、分化を繰り返すことによって、DNAは読み取りできる部分がどんどんなくなっていきます。従って、受精卵から皮膚の細胞へ変化できても、皮膚の細胞から受精卵への変化は、絶対にできないことになっていました。iPS細胞製造技術は、この細胞学の常識をひっくり返し、DNAを初期化してしまうことを可能としました。
しかし、それはあくまでも「初期化」であって、DNA情報そのものを変えるものではありません。つまり、iPS細胞によって、性を決定する性染色体も初期化されますが、性染色体そのものを変化させることはできないはずです。男性のDNAは、何度初期化しても男性のDNAのままです。
色々探してみたところ、マウスのオスから精子を、メスから卵子をつくる実験の成功事例を見つけました(http://www.kyoto-u.ac.jp/ja/news_data/h/h1/news6/2012/121005_2.htm)。しかも、その精子や卵子を使った健常な子どものマウスを得ることにも成功しています。現状はマウスの成功例だけですが、これまでのその他の研究を見ている限り、いずれはヒトにも適用可能になると思います。
この研究では、iPS細胞から卵子や精子の元となる始原生殖細胞に類似した始原生殖細胞様細胞をつくることに成功しています。
さて、ここで私が悩んだことは、この始原生殖細胞様細胞から、「男性の性染色体を持つ卵子」、または「女性の性染色体を持つ精子」を、オーガナイザーを用いて本当につくることができるのかという一点でした。
私はこの疑問を解決するために、さまざまな文献にアクセスしたのですが、確信をもって「できる」と言える情報を見つけることができませんでした。ここは素直に、専門家の皆さんからのご意見をお待ちしたいと思います。
もし、iPS細胞から始原生殖細胞様細胞をつくり、そこからオーガナイザーによって強制的に、「男性から卵巣と卵子」をつくり、あるいは「女性から精巣と精子」をつくり出せるのであれば、そこから先は現状の体外受精技術を使えますので、同性カップルによる子どもは、iPS細胞技術によってつくることが可能であるといえます。しかもDNAについても、カップルの両方から半分ずつ引き継ぐことにもなります。