また2009年6月には、1990年当時4歳の保育園児を誘拐・殺害したとして殺人罪などで無期懲役が確定していた菅家利和さんが、再審の結果、遺留物のDNAが菅家さんと一致しないことが判明し、釈放された。
これら2つの事件は、国家権力の恐ろしさをあらためて世間に示した一方、このようなえん罪事件を生む検察に対しては、これまでにも多くの批判が寄せられてきた。しかし、最終的に判決を下している裁判所についての批判は、なかなか聞こえてこない。
今回は、裁判所の実態を克明に記した『司法権力の内幕』(ちくま新書)を昨年12月に上梓した元裁判官の森炎弁護士に
・日本の高い有罪率や勾留率
・代用監獄制度
・裁判官と検察官の関係
などについて話を聞いた。
–09年に裁判員制度が始まりました。その一方、足利事件の菅家さんのえん罪が確定するなど、日本の刑事裁判が揺らいでいる状況ともいえると思います。日本の刑事裁判に変化の兆しは見られますか?
森炎氏(以下、森) 裁判所自体が変わっていく兆候は出ていると思います。批判を受けて変わっているというよりも、裁判員制度で変わらざるを得ず、変わったわけです。
–それは、どんなところに見て取れますか?
森 これは刑事裁判に限定しての話ですが、これまで日本の刑事裁判では、検察官面前調書(検事調書)を非常に重要視していました。しかし、最近では検事調書を採用しないことが多くなってきています。
●99%以上の勾留率、審理しない裁判官
–検事調書というと、被疑者を検事が取り調べ、その情報を基に作成した調書ですね。
森 そうです。これまで検事調書は価値が高いとされ、裁判でも採用されてきました。また、ほかに変わっている兆候としては、10年に鹿児島で起きた高齢夫婦強盗殺人事件の裁判員裁判では、検察側が死刑を求刑したにもかかわらず、無罪判決が出ました。刑事裁判全体を考えれば、わずかかもしれませんが、これまでにはない判決が出ているということでは、裁判所が変わる兆しが見て取れると思います。