今回の新成長戦略では、これまで安倍政権が発表してきた数々の政策と大きな違いがある。それは、この戦略の膨大な全文のうち、各論部分を除くほとんどの部分が英訳されていることに表れている。
これは、新成長戦略を海外投資家に理解・評価してもらうためであり、その結果として海外投資家の日本株購入を促進し、日本株が上昇することを目指している。つまるところ、株価が成長戦略を評価する指標であるといえる。
アベノミクスの最大の功績は、日本銀行の量的・質的金融緩和とともに、デフレ経済から脱却し、近い将来にインフレ経済になるという期待(インフレ期待)を起こしたことで、円安と株高という資産価値の上昇を通じ、景気の回復感が醸成された。十分に景気が回復しているとはいえない状況の中で消費が活発化してきているのは、“好景気感”によるところが大きい。
●期待した海外投資家からの評価は…
しかし、新たな成長戦略を発表したところで、第2弾のインパクトは小さくなるし、目新しい情報は少ない。事前に報道されている部分も多く、発表後に国内で大きな反響は得られない可能性がある。その点、海外投資家にアピールするという戦略は、多少なりとも効果が期待できる。
実際に新成長戦略には、海外投資家が高い関心を寄せる「法人の実効税率の引き下げ」「GPIF(年金積立管理運用独立行政法人)改革」「コーポレートガバナンス・コードの策定といった企業統治」などが盛り込まれた。こうした海外投資家の興味を集めそうな戦略を英訳することで、海外投資家による日本への投資(日本株の購入)を狙ったわけだ。
しかし、どうやらこの安倍政権のもくろみは空振りに終わったようだ。新成長戦略が発表された6月24日、日経平均株価は前日比6円96銭高だったが、翌25日には同109円63銭安と下落した。その後も、26日には同41円88銭高、27日には同213円49銭安と、大幅な下げとなった。
少なくとも、海外投資家は新成長戦略に高い評価を与えてはいないようだ。しかし、だからだといって、海外投資家を呼び込むための英訳が無駄な努力だったと切り捨ててしまう必要はない。
今の日本経済を立て直し、景気を回復させるためには、海外投資家を巻き込み日本株を上げることは必須条件だからだ。海外投資家による資本流入を促して株価を上昇させ、それを背景にした資産価値の上昇による消費の活性化が、アベノミクスが進める景気回復の中で重要な役割を担っているためだ。
となれば、この失敗を糧にして、さらなる海外投資家を呼び込む施策を打ち出していくことが重要になってくるだろう。
(文=鷲尾香一/ジャーナリスト)