例えば07年10月、東京地裁八王子支部は、西東京市にある「西東京いこいの森公園」に対し、噴水使用禁止の仮処分を下している。噴水で遊ぶ子どもの声などが都の規制基準値の50デシベルを超えたためだ。
昨年9月には保育園の「子どもの声」がうるさいと、近隣に住む男性が保育園を運営する岡山県津山市の福祉法人を相手取り、防音施設の設置と100万円の支払いを求める裁判を起こした。この男性が測定したところ、騒音レベルは70デシベルを超えていた。70デシベルは街頭の喧騒や掃除機の音に相当する。
実際にドイツでも、以前は「子どもの声」が騒音と見なされていた。このため、08年にはハンブルク市で住居区にあった幼稚園が閉鎖に追い込まれ、09年にはベルリンで移転を余儀なくされた例もある。しかし11年5月、ドイツは「連邦環境汚染防止法」を制定し、「子どもの声」による損害賠償請求権を否定した。子どもから発せられる音ばかりではない、子どもの世話をする人から発せられる音も規制から外したのだ。
ドイツでは州レベルでも法整備は進んでいる。ベルリン州は10年、「ベルリン州環境侵害防止法」を制定し、子どもによる音を保護するばかりではなく、施設の存続も保証した。すなわち「子どもの声」やそれに付随して発せられるものなら法で保護され、騒音にならないとされたのだ。
だが日本では、それを採用するのは難しい。「一律に数値によって判断するのではなく、受忍限度論に基づいて柔軟に対処していきたい」。今回の条例改正について、東京都の担当者はこう述べている。
「子どもの声」を一律規制から除外するにも、説得力のある根拠が必要だ。そこで東京都は、「児童福祉法」の「健やかに成長するという子どもの権利」と「子ども・子育て支援法」の「一人ひとりの子どもが健やかに成長することができる社会の実現」を根拠とすることにした。
近隣住民は静かに暮らす権利を持ち、子どもはのびのびと育つ権利を持つ。そのいずれも損なわれることがあってはならない。東京都はパブリックコメントの結果を精査し、早ければ2月から始まる都議会に法案を提出する。
(文=安積明子/ジャーナリスト)