日本は現時点で参加に後ろ向きな姿勢をみせているが、このAIIBをめぐる財務省や外務省を含めた日本政府の対応の遅さに批判が集まっている。
筆者の見解としては、日本は参加を焦る必要はない。日本の対応の遅さを指摘する声も多いが、実は政府内では数年前からAIIB参加をめぐる検討が進んでいたことはあまり知られていない。
前述の通りAIIBは中国主導の国際金融機関である。国際金融機関は、海外での活動において相手国政府との関係などで民間金融機関では情報収集がやりにくい分野で存在意義がある。また、単純に公的な金融活動であるとともに、一国の外交戦略の一環でもある。その意味で、各国の国益がぶつかり合う場でもある。
AIIBは、昨年BRICS5カ国(ブラジル、ロシア、インド、中国、南アフリカ共和国)が新興国などへのインフラ開発支援を目的として設立した新開発銀行と並んで、欧米主導のIMF(国際通貨基金)・世界銀行体制への挑戦と受け止められている。AIIB、新開発銀行はともに中国が主導しているが、特にAIIBは中国だけで出資の半分を占める予定であり、ガバナンスの点で大いに問題がある。
具体的にいえば、AIIBは本部に各国の政府代表者を理事のような形式で常駐させることはしない。融資計画の方針は先決されて、一定期間の後にその成否が各国代表によって審査される。つまり、AIIBの融資について理事会の関与がほとんどないのである。極端な話であるが、中国政府がある国へのインフラ投資を政治判断したら、AIIBはプロジェクトの採算性などを度外視して融資することも十分に考えられる。例えば、北朝鮮に融資された場合、日本の経済制裁が尻抜けになり、日本の国益を損なう可能性もある。
にもかかわらず、G7加盟国でもある欧州諸国が参加するのは、あからさまな現実主義にほかならない。目先の中国の成長は魅力的であり、中国との関係で実利をあげようとしている。
中国がしたたかだったのは、アメリカのオバマ政権がレームダックになって一番弱体化している時を見計らい、かつアメリカと微妙な関係になっているイギリスの取り込みにも成功した点だ。オバマ大統領はイギリスのチャーチル元首相の植民地政策を批判していたので、イギリスとの関係は従来ほど強固ではないのも見透かしていた。イギリスを落とせば、他のヨーロッパ諸国や英連邦諸国を芋づる式に取り込める。イギリスのウィリアム王子が3月に訪中した段階で勝負があった。アメリカは外交政策で失敗したのだ。