「首相官邸は『残業削減と業務効率化のため』などと謳っていますが、とんでもない。真逆の政策ですよ。特に国会会期中になると各省庁は不夜城になります。一応、毎週水曜日は全省庁一斉定時退庁日と決められており、定時になると退勤を促すアナウンスが流れるのですが、その直後に『全員、国会待機してください』というアナウンスが流れるのです。国会待機中は日付が変わるまでの残業はザラなのに始業時間が1時間早まれば、残業時間が1時間増えるだけです。それでももちろん、残業代は一定額以上は出ません」
霞が関においては、残業代も各省庁に振り分けられた国家予算の中から支払われることになる。しかし、すべての職員に満額支払えるほどの予算はないため、結果としてタダ働きが横行しているのは周知の事実である。
「月に180時間残業して、残業代が3万円だったということもザラです」(同)
また、防衛省職員も次のように嘆く。
「安倍首相は、『大手商社が始業時間を早めて業績が上がった』などという報道を目にして決めたのでしょうが、官庁を一般企業と一緒にされたらたまったもんじゃないです。職場について制服に着替えて、始業前の“整列”に間に合わせるためには7時前には職場に着かないといけない。しかも、都内にあった国家公務員宿舎が廃止されて以降、通勤に1時間以上かけている職員がほとんど。終電で帰宅して朝5時過ぎには起きることになります。黒塗りの高級車で通勤する国会議員には、こんな苦労はわからないのです。ちなみに、自衛官には残業代というものがありません」
さらに問題なのは、安倍首相が日本版サマータイムを民間企業にも波及さようとしている点だろう。総合商社・伊藤忠商事が2014年5月から朝型勤務制度を導入し、業績が上がったことが話題になったが、この制度は全社員の始業時間を前倒ししたのではなく、あくまで夜間の残業を原則禁止する代わりに5時〜8時までの早朝に勤務をすれば、インセンティブとして割増賃金を払うというものである。
ちなみに、就労時間全体を1時間早める本格的なサマータイムは、戦後占領下の1948〜51年にかけて4シーズン行われたが、「国情に合わない」として廃止された経緯もある。
安倍首相が導入に前のめりになる日本版サマータイムが、公務員のみならず多くの民間会社員までも疲弊させてしまうのだろうか。
(文=山野一十)