アパート経営はリスクが大きい
では家をそのまま賃貸するとして、高齢者が長年住んでいた家は、そのままではとてもすぐ貸せる状態ではないことが多く、修理やリフォームなど手を入れる必要があります。しかし多額の費用をかけて修理しても、不便な場所や周辺環境が良くなければ借り手がつかないこともあります。
不動産業者から、「アパートを建てて賃貸料収入を得ることで、ゆとりある老後生活を送りませんか」「空室の心配はありません。家賃を保証しますから、安心して収入を得ることができます」などと、アパートの建築、サブリースや一括借り上げの契約を勧められるかもしれません。しかし、いまや「家を建てれば売れる・貸せる」という時代ではなくなっていますので、空室や滞納の心配がないから安心だとはいえないのです。
サブリースとは、所有するアパートを不動産会社に対して貸し出し、不動産会社が入居者へその物件を転貸する仕組みです。サブリース契約は、空室や滞納のリスクはなくなりますが、不動産会社からの支払われる保証料(賃貸料)は直接入居者から受け取る家賃と比べると低くなります。通常の家賃より10~20%低くなるのが一般的です。
その上、不動産は年々劣化していきますから、それに伴って家賃も徐々に下落していきます。30年家賃保証といっても、当初と同額の家賃を保証しているわけでありません。通常2年ごとに家賃の見直しがなされ、家の老朽化とともに保証家賃も下がっていきます。家主が賃料の見直しに応じなければ、不動産会社はいつでも解約できるという条項が契約書には盛り込まれているはずです。一方、家主側から解約する場合は半年前に解約の告知をしなければならず、場合によっては賃料4カ月分の違約金を支払わされることもあります。
駅から徒歩15分以上、環境が良くない場所にある不動産は老朽化とともに空室が増えます。実際に、ローンを返済できず困惑している家主もいます。そうなるとアパート経営は、老後の安心どころか心配を抱え込むことになってしまいます。
少子高齢化の現代では人口はどんどん減少し、それに伴いアパートに住む若い人は減る一方で、賃料収入は値下がりするリスクが大きいのです。
相続の際、最初に考えなければならないのは、相続した不動産を自分が使いたいかどうかです。使いたいならそのまま、または修理して使えばよいでしょう。しかし、子供も含めて使うつもりがなければ売ったほうが安心です。
居住用不動産を、住まなくなった日から3年目の12月31日までに売却した場合は、譲渡所得税の計算上3000万円の特別控除があり、税率も低くなります。ただし、その間、家を他人に賃貸したり駐車場にして賃貸していた場合、この特別控除制度は利用できません。
不動産をめぐる環境は変わってきました。いまや不動産を持っていれば資産価値が上昇するわけではなく、リスクを抱えることになりかねないのです。業者の言いなりになることなく、自分で考え、確かめ、後悔することのないようにしたいものです。
(文=藤村紀美子/ファイナンシャルプランナー・高齢期のお金を考える会)