弟が父と母を騙して財産“生前贈与”を受けていた!父を介護し続けた兄には遺産ほぼゼロ
Aさん夫婦は仕事や両親の世話に忙しく、そう遠くない未来に両親に万が一のことがあるとはわかってはいても、相続のことまで気が回らなかった。父親からは「財産はみんなで公平に分けてくれ」と言われていたので、その通りに分ければ良いだけだろうと考えていた。
Bは「兄さん夫婦は、ずっと両親の面倒を見てくれたから、別荘の土地や家屋は兄さんのものにしていいから。その代わり、実家の土地は、母さんや兄さんと俺で分け合うかたちでいいかな」と続けた。Aさんは両親の面倒を見ていたことにBが配慮してくれていることを知り、うれしく思った。
最後の親孝行のつもりで母親の世話をしていたAさんには、親の遺産の話は宝くじに当たったような現実感の伴わないもののように思えた。別荘を自分ひとりで相続したいと考えたことはなかったが、両親の世話をよくしてくれている妻を思うと、もし本当に別荘が自分名義になるなら、「別荘を売却したお金で、妻への感謝の気持ちとして海外旅行にでも」と漠然と考えた。
勝手に生前贈与
Bからの電話があって1年が過ぎた頃、父親が亡くなった。父親の相続の手続き中に、驚愕の事実が発覚した。
法定相続人は、母、Aさん、Bの3人である。それが、Aさんの知らない間に、父名義の実家の土地・建物が、父から母とBとBの妻に対し、生前贈与されていたのだ。すでにBは贈与税も納めていた。
驚いたのはこれだけにとどまらない。Bは巧妙な手口を使って、実家の土地建物を実質、自分のものにしていた。どういうことか、説明しよう。
建築基準法では、都市計画区域と準都市計画区域では、建築物の敷地が道路とつながっていることを義務づける“接道義務”が定められている。通路の確保ができなければ、仮に火災が起こったときに消防活動が行えないからだ。道路に面していない土地は価値がない、いわゆる“死に地”と呼ばれる。
母親名義となった土地が、まさに“死に地”だったのだ。Bは、土地の権利者である父親をどう言い含めたのか、大きな四角形(B夫婦名義)の中に、小さな四角形(母名義)が存在する登記になっていた。
母親は将来、生前贈与された土地をAさんとBに公平に相続させようと考えており、Aさんから指摘されるまで、贈与された土地が“死に地”であったことに気がついていなかった。これでは、母親の相続の際にAさんが取得できる土地はほとんど価値のないものになってしまう。