FXでの損失を申告すると、大幅に節税できる?
亮子「外貨預金はあるけれど、FX取引はしたことないなあ」
啓子「私もです」
亮子「FXの税制は、途中で変わったのだよね?」
啓子「はい。今回は現在の税制のみ、触れておきたいと思います」
FXでどんなに稼いでも税金は一律
FX取引の税金について説明する前に、FX取引とはどういうものか簡単に触れておきましょう。
FX取引(外国為替証拠金取引)は、前回取り上げた外貨預金の取引と違って、少額の資金でも大金を動かすことが可能な為替取引です。外国通貨の売り買いを、一定の証拠金を担保に、その証拠金の何倍もの取引金額で取引を行いますので、ハイリスクが伴いますが、その分ハイリターンも期待できます。証拠金の何倍もの取引ができることを、てこの原理のように小さな資金で大きな投資額を動かせるということで、「レバレッジをきかせる」といったりします。
たとえば、もともとの資金が10万円でレバレッジを20倍に設定した場合、200万円分の投資ができるということです。資金10万円で、1ドル100円で2万ドル購入することができ、仮に1ドル110円の時に売れた場合には、20万円の儲けが出ます。
もし1ドル90円になってしまった場合には、20万円の損が出て、10万円持ち出しになるので、少ない資金で大きな利益を得られる可能性がある一方で、大きな損失を出してしまう危険もあるのです。
FX取引で利益が出た場合には、それに対してもちろん税金がかかります。FX取引の利益は、前回説明した外貨預金取引等の利益と同様に10種類の所得のうち、雑所得となるのですが、「先物取引に係る雑所得等」として他の所得と切り離して税金を計算するルールとなっています。
先物取引に係る雑所得等に対してかかる税率は、一律に、20.315%(所得税15.315%+住民税5%)と決められています。通常の雑所得であれば、所得が増えれば増えるほど、適用される所得税率が上がって税金が増えていくのですが、FXでは利益が増えても税率は変わりません。100万円の利益が出たら、100万円×20.315%=約20万円の税金がかかるということです。
※厳密にはFX取引にかかった手数料等の必要経費を、100万円のもうけから差し引いて所得を計算します。
FX取引は通貨を売り買いして、主に為替差で利益を得るという取引ですが、外貨預金同様、利息(インカムゲイン)を得ることもできます。金利の低い通貨を売って、金利の高い通貨を買うことで得ることができます。
たとえば、A国の通貨(金利2%)を売却して、B国の通貨(金利3%)を買った場合。A国の通貨を借りてきて売却し、そのお金でB国の預金を持つ、というイメージです。その結果、A国の金利を支払って、B国の金利を受け取ることになります。受け取る金利3%-支払う金利2%=金利1%分をもうけとして得ることができます。この金利差をスワップポイントといって、こちらも先物取引に係る雑所得等に分類されて、同様の方法で税金がかかります。
ただし、このスワップポイントの決済のタイミング等は、FX取引会社によって異なるため、課税されるタイミングも異なります。口座への反映のタイミングがポイントで、(1)決済した際にスワップポイントが取引口座に反映される、(2)決済にかかわらず、スワップポイントが毎日取引口座に反映される、の2パターンがあります。
(1)の場合ですと、決済するまではスワップポイントが引き出せないので、スワップポイントを自由に使えない状態です。この段階では収益も確定したといえませんし、確定していないもうけに対して税金がかかるというのもおかしいので、(1)のパターンであれば、決済しない限り税金がかからない状態となります。(2)のパターンは、スワップポイントを自由に使うことができる状態で、収益も確定していると判断されて、口座に反映された分について税金がかかることになります。FX取引をする場合には、FX会社に確認すると良いでしょう。
FXにも存在する「20万円の壁」
FX取引のもうけについて、基本的には確定申告が必要となりますが、前回説明したときと同様に、FXのもうけについても確定申告が免除されるケースがあります。具体的には、次の条件に当てはまる方です。
・1社の会社から給与をもらっていて、その他の所得(退職所得除く)の合計が20万円以下の人
・2社以上の会社から給与をもらっていて、年末調整されなかった給与収入とその他の所得(退職所得除く)の合計が20万円以下の人
申告が不要ですので、もうけを毎年20万円におさえることができれば、所得税が差し引かれず、FXのもうけをまるまる手に入れることができます(※確定申告が不要であっても、住民税は申告が必要となりますので注意してください)。ちなみに、年収2000万円を超える会社員や、医療費控除などを適用するために確定申告が必要な人は、すべての所得について申告が必要となりますので、注意してくださいね。
FXで損が出たときは
FX取引で損が出たときには、他の「先物取引に係る雑所得等」内での損益の相殺は可能ですが、「先物取引に係る雑所得等」以外の種類の所得と損益を相殺することはできません。
ただし、他の「先物取引に係る雑所得等」内で損益を相殺してもなお引ききれない損失がある場合には、一定の条件のもと、翌年以後3年内に発生する「先物取引に係る雑所得等」の金額から差し引くことができます。損失が出た場合に申告しておけば、翌年の所得から差し引くことができ、税金を安くなるということです。
仮に100万円の損失を出した翌年、200万円の利益が出たとしましょう。損失を申告した場合と申告しない場合で翌年の税金が大きく違います。
・損失を申告した場合
(利益200万円-繰り越した損失100万円)×20.315%= 税金 約20万円
・損失を申告しない場合
利益200万円×20.315%=税金 約40万円
つまり、損失を申告した場合としない場合で、倍も税金が変わってきます。損失だから税金はかからないので申告はしなくていいや、と考えず、翌期以降の税金に大きく影響するので、必ず損失も申告するようにしましょう!
亮子「FXで利益を出している知り合いもいるけれど、損をしたという話もよく耳にするよね」
啓子「レバレッジをきかせて、自己資金を大幅に上回る想定元本で運用していると、大きな損をしかねませんからね」
亮子「株式投資などもそうですが、どこで利益を確定させるのか、損切りするのかがポイントですね。それは税金の面から考えるのではなく、自分の取引スタイルに合わせて見極めることが重要だと思います」
啓子「そして、その結果利益が出た場合にはきちんと税金を納めることが大切。また損をしてしまった場合には、少しでも税金を減らすことができるといいですね」
(文=平林亮子/公認会計士、アールパートナーズ代表、徳光啓子/公認会計士)