旭化成建材とその担当者だけの問題ではない
横浜市都筑区の大規模マンションで、一部建物が傾いている問題。杭の施工に当たった旭化成建材の管理体制のずさんさが明確になり、国土交通省が立入検査を行うなど、いよいよ責任追及が厳しさを増しています。
ただ、この問題は旭化成建材1社、担当者1人のみの問題ではなくなりつつあります。同社のほかの担当者が手がけた物件でもデータの偽装が明らかになり、他社施工物件への懸念も強まっています。現在マンション住まいの人は、自分のマンションは大丈夫かと不安を感じ、マンション購入を考えている人は、より安全な住まいを選ぶにはどうすればいいのか――など、あれこれ不安や悩みが尽きません。
鬼怒川の決壊では住民の命を救ったヘーベルハウス
余談になりますが、この夏の豪雨による鬼怒川決壊時には、旭化成ホームズのヘーベルハウスが「奇跡の白い家」と話題になりました。多くの家が洪水で流されるなか、白い壁のヘーベルハウスだけは動くことなく、流されてきた一戸建てを受け止め、その屋根に避難していた住民がヘリコプターで救助されるまで支え続けました。
この「奇跡の白い家」を後日訪問した映像をみると、地盤が大きくえぐり取られ、建物は浮いた状態に見えました。鬼怒川近くの地盤が弱い場所ということもあり、一戸建てなのに基礎杭を打ち込んでいたことが、この住まいの家族、流されてきた住宅の家族の命を救うことになったようです。
この場合には、基礎杭が命を救うことになったのですが、今回は同じ旭化成グループの旭化成建材が基礎杭で問題を起こしたのですから、なんとも皮肉な結果です。
基礎杭のいらない「直接基礎」なら安心感が高まる
話を元に戻しましょう。
データの偽装や施工不良を見抜くのは建築の専門家でさえ難しいといわれていますが、なんとか安全なマンションを見つける方法はないのでしょうか。
そのひとつの方策が、基礎杭が不要なマンションを選ぶということです。マンションの基礎には大きく分けると「杭基礎」と「直接基礎」があります。強固な地盤である支持層が地表からかなり深い場所にある場合、その支持層まで基礎杭を打ち込んで、その上に基礎面を施工することになります。表層地盤がもろいため、長い杭によって支持層に固定しないと基礎が安定しないので、この方法がとられます。これが「杭基礎」です。
それに対して、比較的地表面の近くに支持層がある場所なら、杭を打ち込むまでもなく、地表から一定の深さまで掘り下げればそのまま支持層に基礎を施工できます。これを「直接基礎」といいます。基礎杭がないのですから、データ偽装や施工不良への心配には及びません。
東京湾岸近くでも「直接基礎」のマンションがある
東京圏でも武蔵野台地と呼ばれる山手方面では、この支持層が比較的浅いエリアがあります。よく知られているところでは、東京都新宿区の西新宿周辺がそうで、東京都庁などのオフィスビルの多くが「直接基礎」ですし、最近分譲された三菱地所レジデンスの「ザ・パークハウス西新宿タワー60」など、このエリアの超高層マンションの大半が「直接基礎」といわれています。
比較的湾岸に近いエリアでも、一部に支持層が地表近くまで盛り上がっている場所があります。たとえば、東京都中央区新川の「Brillia THE TOWER TOKYO YAESU AVENUE」(東京建物)などがそうです。この物件では、「直接基礎」の上に免震装置を組み込んで、さらに地震対策を強化しています。
今回の事件で、今後はこの「直接基礎」の物件が注目を浴びそうです。ホームページなどで安全性を前面に打ち出してPRするケースが多くなるのではないでしょうか。
建築後10年程度が経過した中古マンションを
もうひとつ、中古マンションを選択する方法も考えられます。一般に構造的な欠陥があれば、築後数年程度で表面化するといわれています。逆にいえば、建築後10年程度が経過して問題が発生していないマンションであれば、まず構造的な欠陥はないのではないかと推定されます。
それでも、現地見学に際しては念のために外観やエントランス、共用廊下などの共用部分などに亀裂が入っていないかなど、目視でキチンと確認しておきましょう。専用部についても特に建具に注目。スムーズに開かなかったり、隙間があったりすれば建物の傾きの可能性があります。
最近はホームセンターなどで、傾きをチェックできる水準器が、数千円程度で販売されています。現地見学するときに用意しておけば安心です。
これから着工のマンションならむしろ安心?
最後に少しうがった見方かもしれませんが、これから基礎工事が始まる物件なら、「杭基礎」のマンションでも、ある程度安心していいかもしれません。
というのも、ここまで大きな社会問題になった以上、分譲会社、設計・施工会社は従来以上に慎重に商品企画、設計・施工を行い、監理の徹底を図るはずです。間違ってもデータの偽装が行えないように監理し、杭が支持層に到達しているかどうかを確実にチェックするはずです。日本の建築技術は世界でもトップクラスであり、地震などの自然災害対策も充実しています。ですから、今回のような人為的なミスなどがなくなれば、まず安心して住むことができます。
それでも信用できない、不安というなら、もう少し待ってください。今回の問題を踏まえて、これからこうした問題が二度と起こらないような法整備などの体制づくりが行われるはずです。それに沿って供給されるマンションであれば、まず安心して生活できるでしょう。それには2~3年はかかるかもしれませんが、それまで待てる人ならジックリ腰を据えて探すのも悪くないでしょう。
(文=山下和之/住宅ジャーナリスト)