『第二次世界大戦』という本を書いてノーベル文学賞を取ったイギリスの元首相、W・チャーチルは著書の中でこう言っている。
「民主主義は最悪の政治体制だ。ただし、これまで試みられてきた民主主義以外のすべての政治体制を除けばだが」
彼は第二次世界大戦時にイギリス国民を鼓舞して勝利に導いた人物として知られるが、その政治家としての軌跡は波乱に満ちている。しばしば選挙に悩まされ、失脚も経験した。そんなチャーチルの「民主主義」に対する嘆きとも、ひねくれた賛辞とも解釈できる言葉がこれである。
先日、スキーと温泉の町として知られる新潟県南魚沼市にある500戸超のリゾートマンションで、前理事長による11億7800万円の横領事件が発覚した。この人物の本業は公認会計士。15年にもわたり理事長を続けていたという。
あまり世間には知られていないが、分譲マンションの管理組合という組織は1962年に施行された区分所有法によってその運営手法が定められている。約53年前にできたこの法律は、今となってはいろいろな制度疲労を起こしている。しかし、この法律の基本的な精神は、マンション管理を「民主主義」的に運営しようというものだ。
管理組合の日常における最大の使命は、集合住宅であるマンションの共用部分がつつがなく機能して、清潔に保たれるべく必要な業務を行うことである。そのために、区分所有者から徴収した管理費を経費として使う。こういえば難しいが、ほとんどのマンションはほぼすべての管理業務を管理会社に委託している。集めた管理費は、ほぼ右から左で管理会社に支払われる。
管理組合のもうひとつの大きな役割は、建物の維持・保全に必要な業務を行うこと。つまり、壊れたところを適宜補修したり、壊れそうなところを予め予防的に修繕しておく。このために、管理費とは別に「修繕積立金」という名目で区分所有者からお金を集めている。これは通常、十数年に一度の頻度で行われる大規模修繕のために、管理組合名義の銀行口座に積み立てられる。
今回11億円超の横領が行われたのは、この修繕積立金だと報道されている。500戸超の規模になると、毎年1億円前後の修繕積立金が積み上がる。15年も理事長をやっていれば、11億円を横領するのは理論的に十分可能だ。自分が管理している銀行口座の通帳残高を偽造すればよいだけだから。