マイナス金利、「今こそ住宅や株購入」「預金はもうダメ」の罠…何もする必要ない?
(2)表面金利ではなく、実質金利が重要
長い間、日本はデフレでした。今もまだ完全にデフレを脱却したというところまではいってないといっていいでしょう。デフレというのは物価が下がるということですから、仮に金利がゼロでも物価の下がった分、実質的に金利がプラスになっているということです。単純に表面的な金利だけで判断するのではなく、物価上昇や物価下落と併せて考えるとどうかということを見ておく必要があります。
たとえば戦後表面金利が最も高かったのは昭和49年で、当時の1年定期預金の金利は年率7.75%という、今では驚くような金利ですが、当時の物価上昇率は年10%以上でしたから、まさに実質金利はマイナスだったのです。
(3)金利が下がったから買うのではなく、良い対象があるから買う
住宅ローン金利が下がったからといって、すぐに不動産投資や住宅購入に飛びつくのは禁物です。不動産購入のような場合は、住むにせよ投資するにせよ、対象物件の価値を見極めることが第一で、金利というのはあくまでも購入手段に付随する条件のひとつにすぎません。ここ数年の間に全体としてかなり不動産価格は上昇しています。それでも購入するのであれば、金利が下がったからということではなく、十分な収益性を生む良い物件があるからというふうに考えるべきでしょう。
このようにマイナス金利だからといって慌てて行動するのではなく、冷静によく考えることが大切です。ところが人間の心理には「選好の逆転」という現象があって、ややもすれば本末転倒的に判断をしがちです。特に買いたいと思っていなくてもスーパーなどで「本日ポイント3倍デー」と言われると、つい余計なものを買ってしまう心理と同じです。
こうした行動自体が悪いというわけではありませんが、判断するに当たってはそれが本当に必要なものなのか、それを今の時点で買うことが合理的なのか、といったことを考えるべきです。消費税が8%に上がったときにも「買い急ぎ」の動きがありましたが、結局は増税後に大幅に値段の下がったものもたくさんあります。
特に投資する場合は、金利の減る分よりも投資で損失が発生することのリスクのほうがはるかに大きいのです。ほんのわずかな金利の上げ下げだけで飛びつくことはやめたほうがいいですし、マイナスという言葉に惑わされ、株式投資や不動産投資に慌ててお金をつぎ込むことは注意すべきです。金利が多少変動したとしても、その数字を実際の金額に当てはめてみて冷静に判断することが大切でしょう。
(文=大江英樹/オフィス・リベルタス代表)