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荻原博子「家庭のお金のホントとウソ」

10万円給付、実際もらえるのは7月?安倍政権が自治体に丸投げで現場は悲鳴、大幅遅延か

文=荻原博子/経済ジャーナリスト
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安倍晋三首相(右)と高市早苗総務大臣(左)(写真:日刊現代/アフロ)

 オフレコで東京都の某区長に電話すると、電話口に出た彼は「えっ、1人10万円の給付は政府がやるんじゃないの?」と絶句した。

「10万円の現金給付は、どうも自治体に丸投げするようなのですが、大丈夫ですか?」と聞いたからだ。「もし区でやるとしたら、簡単じゃない。新型コロナ対策もあるので」。電話の向こう側の声が曇った。

 4月20日、政府が決めた全国一律の1人10万円の「特別定額給付金」の扱いについて、高市早苗総務大臣は、4月27日時点の住民基本台帳に記載されている人が対象になると公表した。4月17日の記者会見で、安倍晋三首相は「市区町村を申請の窓口とした場合、役所に申請者が殺到して感染が拡大するリスクがあるため、申請は、郵送かオンラインで(する)」と言った。その言葉を額面通り受け止め、市区町村はこの案件から外れるものと思っていたようだ。

 ところが、4月20日の高市総務相の説明では、郵送やオンラインを使うにしても、市区町村が窓口となり、申請書を送り、返ってきた申請書に基づいて現金を銀行口座に振り込むという手順になるとのことだ。

 安倍首相は「申請は、郵送かオンライン」と言い、かなりの部分がオンラインで処理できるなら、自治体の負担も少なくて済む。だが、オンライン申請の場合、マイナンバーカードが必要となる。現在、マイナンバーカードの取得率は全国民で14%。86%の人は、オンライン申請ができないということだ。

 しかも、マイナンバーカードは通常でも交付申請してから手元に届くまでに1カ月はかかる。今のように役所が非常事態になっているときは、2カ月くらいはかかるだろう。つまり、今からマイナンバーカードを取得してオンライン申請をする人は少ないということだ。

 そうなると、基本的には市区町村が申請用紙の送付から回収、現金の振り込みまで、フル稼働しなくてはならないことになる。

リーマン・ショック時は振り込みに半年以上

 市区町村がすべての住民に申請用紙を配布し、世帯主が本人名義の金融機関の口座番号などを記入して、口座と本人を確認できる書類など一式を市区町村に送り返す方式は、リーマン・ショックのときに世帯単位で配られた、1人1万2000円(65歳以上と18歳以下は2万円)の「定額給付金」とほぼ同じ方式だ。

 2008年9月15日にリーマン・ショックが起き、その緊急経済対策として、10月30日に当時の麻生太郎首相が、消費喚起のために各家庭に「定額給付金」を配る政策を発表した。しかし、準備に時間がかかり、実際に施行されたのは4カ月後の09年3月4日だった。

 そして、4カ月も準備期間があったにもかかわらず、ほとんどの市区町村は申請書の発送が間に合わず、3月4日の施行日に合わせて申請書を発行して受付を開始したのは、約1800団体中の10%にも満たない146団体だった。

 東京23区で見ると、申請書を発送して受付を開始したのがもっとも早かったのは中野区で3月12日。同区では、3月27日には申請された各家庭への給付を開始している。一方、受付開始が4月16日と中野区より1カ月遅かった渋谷区は、給付も大幅に遅れて5月13日からのスタートになった。

 なぜこんなに時間がかかったのかといえば、住民から送られてくる申請書は手書きなので、これをチェックし、データ化するということを人の手で行わなくてはならない。また、銀行口座も含めた個人情報が記載されているために、安易にアルバイトに頼むこともできないし、どこかの会社に丸投げするわけにもいかないからだ。

 たとえば、渋谷区の場合、人口約23万人で世帯数約14万に対して、職員数は約2000人。この中の1割の200人を書類処理に回したとしても、1人当たり約700世帯、約1200人に対応しなくてはならない。ただでさえ新型コロナウイルス対策で人員不足に陥っている現状で、大量の職員を「特別定額給付金」の対応に割くのは難しいのではないか。そうなると、前回よりも支給が遅れてしまう可能性もある。

10万円の給付金が届くのは早くても7月に?

 09年の「定額給付金」では、ほとんどの人にお金が届いたのは6月26日。この時点で、給付済みの世帯は86%となった。つまり、麻生首相(当時)が「現金を配る」と言った10月30日から、約9割の世帯がお金を受け取るまでに8カ月かかっている。今回は、これを5月末から6月上旬までのわずか1カ月でやってしまおうというのだが、窓口の担当者は口を揃えて「無理だ」と言う。

 リーマン・ショックのときと違って、今回は役所も新型コロナ対策をしながら、リモートワークなどを取り入れて作業を行うのだが、申請書類などの公的書類は基本的には家に持ち帰れない。どうすればいいのか、良いアイデアが浮かばないという。

 特に、東京都など感染者が多発し、人口も密集し、かつ職員がほかの新型コロナ対策で忙殺されている地域では、支給が3カ月、4カ月と遅れても不思議ではない状況だと、現場では言う。冒頭の区長のように、国がやるものとばかり思っていたのでなんの準備もしておらず、自治体がやらなければならないということを、4月20日時点で初めて知ったという首長も多い。

 そのため、準備を整え、申請書を発行し、帰ってきた書類の事務処理をしてお金を振り込むとなると、全員の手元に現金が届くのは早くても7月くらいになるのではないかと、現場では言う。

 安倍首相が「前例にとらわれず、大胆な政策を練り上げる」と言ってから、すでに1カ月が過ぎている。その間、新型コロナは勢いを強め、世界経済の成長率をはじめとする経済指標はリーマン・ショック時を超えて、世界恐慌と比較されるものばかりになってきている。日本総合研究所の試算では、宿泊業・飲食業に限っただけでも、約100万人の雇用が喪失するという。すでに、立ち行かなくなって倒産するところも出てきている。

 今や、日本中すべてが新型コロナの被災地になっているようなものだ。そんな中、不安におびえる一般家庭には、今のところ10万円給付以外の「これぞ」という経済政策が見当たらない。

 そこで提案したいのが、家計に安心を与えるための腹を括った経済政策だ。それは「電気料金」「ガス料金」「水道料金」の国による一部補助であるが、詳細については次稿に記したい。

(文=荻原博子/経済ジャーナリスト)

荻原博子/経済ジャーナリスト

荻原博子/経済ジャーナリスト

大学卒業後、経済事務所勤務を経て独立。家計経済のパイオニアとして、経済の仕組みを生活に根ざして平易に解説して活躍中。著書多数。

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