3月18日より、ついにサービス開始となった「モバイルPASMO」。交通系ICカードとして広く利用されてきた「PASMO」を、スマートフォンで利用できるようにした新サービスである。
しかし、いち早くサービスが開始され、すでに多くのユーザーを獲得している「モバイルSuica」とは一部機種でしか併用できず、また、Androidのスマホにしか対応していない、つまりiPhoneでは利用できないことから、その利便性を疑問視する声も上がっているようだ。
では、モバイルPASMOの利点はひとつもないのかというと、そんなことはないらしい。たとえば、これまでは把握するのが難しかった「バス利用特典サービス(バス特)」のポイントやチケットが、スマホで簡単に確認できるようになるなど、このサービスにしかないメリットも確実にあるという。
モバイルPASMOという新サービスは今後、モバイルSuicaのようにユーザーをつかんでいけるのか。モバイル決済サービスに詳しい、ポイント交換案内サービス「ポイ探」代表取締役の菊地崇仁氏に話を聞いた。
モバイルPASMO導入で、カード式PASMOは不要になる?
最初に、モバイルPASMOでは何ができるのかについて、改めて整理していこう。モバイルPASMOを導入すれば、もう従来のカード式PASMOは必要なくなるのだろうか。
「モバイルPASMOはそれまでのカード式PASMOと同じく、改札や買い物などで使うことができるのはもちろん、オートチャージを設定できたり、定期券が購入できたりと、カード式PASMOに付属していた機能は、ほぼ使えるようになっています。ただ、小児用PASMOは対象外となっているので、今までPASMOを所持していた大人が、カード式からスマホ利用に切り替えるためのサービスだといえますね。
ですから基本的には、モバイルPASMOさえあれば、カード式PASMOは持たなくていいでしょう。とはいえiPhoneや、『おサイフケータイ』に対応していない端末は利用の対象外ですし、おサイフケータイが使える端末であっても、なかにはモバイルPASMO非対応というケースもありますので、その点は注意が必要です」(菊地氏)
Androidユーザーでも、モバイルPASMOに対応しているかどうかは念入りに確かめたほうがよさそうだ。
次に、菊地氏が感じるモバイルPASMOの長所を教えてもらった。
「モバイルPASMOで一番重要だと思うのは、残高がわかりやすいところです。カード式PASMOでは、改札などで“ピッ”と利用したときに表示される数字を見て、初めて残高を確認するという人も多いでしょう。それだと、駅ナカの店舗でPASMOを使って買い物をしたあとなどに、残高不足になっていることに気づかないまま、改札で引っかかっててしまう可能性があります。駅ナカでPASMOを利用して残高が少なくなってしまったとしても、その場ですぐにチャージできるというのは、やはりモバイルPASMOの大きなメリットです。
もうひとつの利点は、PASMO圏でスマホ定期券をつくれるようになったこと。モバイルSuicaの場合、乗車駅と降車駅のどちらかがJR東日本の駅でなければ、定期券を購入することができませんでした。それがモバイルPASMOのサービス開始によって、私鉄の駅から乗って私鉄の駅で降りるという場合でも、スマホに定期券を入れられるようになったのです。モバイルSuicaで定期券が使えなかったという人は、これまで一定数存在していたはずなので、そこがカバーできるようになったのは特筆すべきポイントでしょう」(同)
モバイルPASMO最大の問題は、既存のPASMOを移行できない点
このように、メリットも決して少なくないモバイルPASMOだが、まだ3月に始まったばかりのサービスということもあり、不便な点も散見されるようだ。
「モバイルSuicaは、それまで使っていたSuicaを取り込むことができるのですが、モバイルPASMOは既存のPASMOを移行することができず、すべて新規発行になってしまいます。これは、モバイルPASMOの一番のデメリットだといえるでしょう。
要するに、PASMOの残高が残っている場合はそれを使い切るか、払い戻しを行わなければいけないという、非常に面倒くさい仕組みだということですね。残高を完全に使い切るのはかなり難しいことですし、PASMO定期券の場合は、払い戻しに手数料が発生する場合があります。ここを改善しないと、利用者数が伸び悩んでしまうのではないでしょうか」(同)
最後に、そんなモバイルPASMOの展望について語ってもらった。モバイルPASMOがしっかりとユーザーを増やしていくためには、どのような手段が挙げられるのか。
「まずは、できるだけ早くiPhoneでも利用できるようにしないと、サービスとして厳しいだろうと考えています。日本国内にはiPhoneユーザーがとても多いので、対応しているのがAndroid端末だけという現状は致命的でしょう。もっとも、JR東日本とアップルの契約の内容がどうなっているかわからないので、入り込めない可能性はありますが……。また、前述したように、既存のカード式PASMOの取り込み機能を導入するのも必須ではないでしょうか。
そして、これは難しいとは思うのですが、学生の通学定期券をスムーズに新規購入できるようになれば理想的ですね。モバイルPASMOのみならず、モバイルSuicaにもいえることなのですが、インターネットから通学定期券を新しく買う場合、購入申込書や通学証明書などを郵送する必要があります。特に大学生ですと、スマホを持っている人がほとんどですから、仮にモバイルPASMOが『郵送しなくても通学証明書を写真で送るだけでOK』といったことになれば、モバイルSuicaの先を行けるはずです」(同)
カード式PASMOの移行ができない、iPhoneに非対応など、さまざまな点で課題が残るモバイルPASMO。最低限、モバイルSuicaと同じレベルの機能が搭載され、同じ機種で使えるようにならなければ、普及へのハードルは高いままなのかもしれない。
(文・取材=後藤拓也/A4studio)