見解分かれる所有権の放棄
空き家、空き地の増加が目立つなか、所有者が所有し続けることが負担になっており、いっそ所有権を放棄したいとの要求も強まっている。不要となった不動産の所有権を放棄できるかについては明確な規定や判例がなく、学説も定まっていない。今後、管理されない不動産がますます増加していくことを見据え、この議論に正面から取り組む必要性が高まっている。
民法239条には、「所有者のない不動産は、国庫に帰属する」という規定があるが、仮に所有権の放棄が認められれば、国の所有に移ることになる。不動産の所有権の放棄に関しては、一般論としては、動産で放棄ができるのならば、不動産でも明確に禁じる規定がない以上、放棄はできるとの説が多い。しかし、(1)それはどのような条件の下でできるのか、(2)その手続きはどのようなものかという点について見解が分かれている。
順番が前後するが、まず(2)の手続きについては、「物権の設定及び移転は、当事者の意思表示のみによって、その効力を生ずる」(民法176条)とあるので、意思表示だけでできるとする見解もある。しかし、第三者に対抗するために行う登記については、現状では所有権放棄の手続きは存在しない。
(1)の条件については、放棄できるにしても、たとえば危険な不動産の場合、もっぱらその管理責任から逃れる目的で放棄するようなことは公序良俗に反し、認められないとの見解がある。「負財」という概念を用い、国が所有することについて同意できないような負の価値を持つ不動産については、放棄できないとの説もある。
この場合、放棄できるのは、国が持つことについてなんらかの価値を見いだせるもの、あるいは少なくとも持っていてもリスクを負うようなものではないものに限られる。前者の場合、寄付を受け付ける場合の条件に近く、後者を含めれば、それよりは広げた範囲において放棄を認め、国が引き取っても良いという考え方になる。しかし、現状では国は基本的には寄付すら受け付けておらず、より広い範囲で国が引き取らなければならないとなると、国の負担は増す一方である。