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米山秀隆「不動産の真実」

「無価値な不動産」所有&相続の悲劇…所有権放棄も国へ寄付も不可、延々と費用負担発生

文=米山秀隆/富士通総研主席研究員
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相続放棄による国への移転

 
 現在は、所有権の放棄はしたくとも登記の手段がなく、できない状態になっているが、相続放棄すれば国に引き取ってもらうことができる。相続放棄は不要な不動産のみを選択的に行うことはできず、遺産すべてを放棄しなければならないが、相続人全員が相続放棄して相続人不存在となった場合、自治体などの申し立てによって選任された相続財産管理人が換価して残余があれば、国庫に納付される。

 しかし、相続財産管理人の選任には費用がかかるため、相続放棄後、こうした手続きが行われることは稀である。最後に相続放棄した人は、相続財産管理人が選任されるまでの間、管理責任は残るが、その責任も現状では徹底されているわけではない。相続放棄された不動産が危険な状態となり、そのまま放置されていることも少なくない。

 空家対策特別措置法では、相続放棄された空き家を特定空家(危険な状態のものなど)に認定し、代執行の必要が生じた場合には、所有者不明の場合に行う略式代執行の手続きによることになる。所有者不明扱いなので、費用は請求することはできない。したがって、現状では相続放棄された場合、最終的には公費で取り壊さざるを得ない事態に至る。

 前述のように、相続放棄は選択的に行うことはできないため、現状ではそれが相続放棄に踏み切るハードルになっているが、今後、空き家のほかにめぼしい遺産はないといったケースが増えていけば、相続放棄が増え、管理責任も果たされず、最終的に公費で取り壊さざるを得ない事案が増えていく可能性がある。

 あるいは、相続放棄は選択的にはできないが、必要な財産を遺言書で遺贈したり、生前贈与したりしておけば、必要な財産を確保した上、最後に不要な不動産のみを相続放棄して手放すといったこともできないわけではない。裏技的ではあるが、こうしたことが実際に行われれば、国は使い道のない不動産ばかりを押し付けられてしまうことになる。

所有権の放棄ルールの必要性

 今後、こうしてなし崩し的に放棄され、国が引き取らざるを得ない不動産が増加していく可能性を考慮すれば、最初から所有権を放棄できる手続きや条件を明確にしておくべきとの考え方をとることも可能である。

 これについては、例えば固定資産税何年分などの費用負担を求めた上で、放棄を認めるなどのアイディアがある。国が引き取ることで国の負担が増していくが、放棄する人に放棄時に一定の費用負担を求めるという考え方である。危険な物件については、その状態を解消するために必要な費用の負担を強いることも必要になってくるだろう。

米山秀隆/住宅・土地アナリスト

米山秀隆/住宅・土地アナリスト

1986年筑波大学第三学群社会工学類卒業。1989年同大学大学院経営・政策科学研究科修了。野村総合研究所、富士総合研究所、富士通総研等の研究員を歴任。2016~2017年総務省統計局「住宅・土地統計調査に関する研究会」メンバー。専門は住宅・土地政策、日本経済。主な著書に、『世界の空き家対策』(編著、学芸出版社、2018年)、『捨てられる土地と家』(ウェッジ、2018年)、『縮小まちづくり』(時事通信社、2018年)、『空き家対策の実務』(共編著、有斐閣、2016年)、『限界マンション』(日本経済新聞出版社、2015年)、『空き家急増の真実』(日本経済新聞出版社、2012年)など。
米山秀隆オフィシャルサイト

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