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鈴木貴博「経済を読む“目玉”」

飲食店経営者は「2022年夏になっても需要は以前の3割減」を前提に大胆な決断をすべき

文=鈴木貴博/百年コンサルティング代表取締役
飲食店経営者は「2022年夏になっても需要は以前の3割減」を前提に大胆な決断をすべきの画像1
づぼらやの店舗(「Wikipedia」より)

 日本人は社会学的にいえば農耕民族的思考が根付いている民族だといわれています。特徴としては忍耐力があって一族や集落を大切にする。昭和時代の大企業の日本的経営というのは、まさにそのようなかたちで、会社を家族のようにとらえ、辛抱強く何十年もかけて製品や事業を育てる経営が行われてきました。

 大企業ではない中小企業の経営者も、似た気質を持っている方が多いと思います。ハイテクのITベンチャーなどはもっと短期志向の方も多いのですが、昔ながらの業種の経営者は総じて粘り強いことが多い。

 そのような農耕民族的経営が行われている典型的な業種が飲食業です。その土地に根付いて、開業当初はなかなかお客さんが来ないのですが粘り強く営業を続け、そのうち固定客が1人、2人、10人、100人と増え、5年がんばってようやく経営が安定する。そのような粘りを持った経営者でないと、飲食店経営はなかなか務まらないものだといわれます。

 さて、今回の本題はアフターコロナです。この夏、よく目にするようになったのが飲食チェーン店の大量閉店のニュースです。そのなかでも消費者目線で仕方がないと感じるのは店舗網の5%から10%程度の縮小です。吉野家ホールディングスが国内外3300店のうち最大150店舗を閉店するとか、スガキヤが300店舗超の国内店舗網のなかから約30店舗を閉店するというのがその事例です。コロナの苦境で不採算店を整理するのは仕方ない自衛策でしょう。

 一方でニュースとしてつらいのは、そのお店しかないお店の閉店や、大半のお店が閉まるといったニュースです。最近の例でいえば、大きなふぐの提灯で知られた大阪の新世界の名物だった「づぼらや」の閉店は悲しいニュースでした。また東京のキッチンジローが15店舗のうち13店舗を閉店するというニュースがありましたが、これも消費者目線でいえばとても残念なニュースです。

 しかし、これらの感想は実は私が消費者目線で感じた感想です。では飲食店の経営者目線で見たら、このコロナ危機をどう捉えるべきなのでしょうか。

農耕民族的経営の考え方

 ここで冒頭の話に戻ります。アフターコロナをどう乗り切るべきか、農耕民族的思考で考えたら、ここで粘り強くコロナ禍が過ぎるまで待とうという考えになります。コロナ禍についてはいろいろな予測がありますが、ひとつの手掛かりとして、景気が元に戻るのが2021年度末、つまり2022年3月頃だという情報があります。

 これは比較的保守的な未来予測だと思います。今年2020年の秋冬におそらく新型コロナの再流行があって、そこではまだワクチンも治療薬も間に合わないため消費者は家に籠らざるをえない。ここまでは通常の予測の範囲内です。

 それで楽観的には来年の夏頃にはコロナが収束し始めるという予測もありえます。これは過去のパンデミックでも大きな被害は2年程度だったという経験則からの楽観的な見方です。ワクチンもさすがにこの時期には完成する可能性もかなり高いかもしれません。

 しかし、ここで議論しているのは、経営として「あと何カ月この状況を我慢すべきか」ということです。来年の春までは資金繰りがなんとかなるという前提だと、もし来年の春夏にワクチンが完成しなかったら、そこで資金計画が破たんしてしまいます。可能性としては来年の春夏にはまだワクチンも治療薬も開発が間に合わない可能性は十分にある。そして2021年の冬にも3度目の大流行が起きる可能性もあるわけです。

 ですから、コロナ禍をなんとか我慢してやり過ごそうと思ったら、あと1年半ちょっと、2022年5月末まで今とそれほど変わらない状況が続いたとしても、耐えられるように体制を縮小して、細々と経営を続けられるようにする。「やまない雨はない」と信じてそれまでがんばる。これが農耕民族的経営の考え方です。

 リーマンショックのような過去の大不況の場合は、この農耕民族的思考で対処した経営者が一番被害が少なかったかもしれません。逆に不況のまっただなかで経営権を二束三文で手放すことになってあとで後悔した経営者も多かったはずです。

「新しい日常」と「デジタルトランスフォーメーション」

 ただ、この考え方が正しいのは、2022年の夏になれば景気が完全に元に戻るという前提が成立する場合です。ここがコロナのポイントで、アフターコロナについてはこれまでの不況と違い、この回復前提が崩れる可能性があるのです。

 キーワードをいえば「新しい日常」と「デジタルトランスフォーメーション」が重要です。わかりやすい例を出すと、今、リモートワークが大企業を中心に広まりつつあります。これは日本経済全体にとっておそらく不可逆的な業務プロセス進化で、コロナ禍がおさまった後も、かなりの仕事が「リモートでこなせばいい」という考え方に変わる可能性があります。そして業務は自宅で、会議もリモート参加でということになると、オフィス街の人口が激減することになるでしょう。

 その前提で未来を想定すると、オフィス街で開業する飲食店は2022年の夏が来ても元のようには顧客が戻ってこない可能性が高いということになります。ランチタイムにお店を埋めていたサラリーマンやOLの姿がまばらになり、夜にお酒で盛り上がっていたスーツ姿の集団がやってこなくなる。

 よく似たまったく違う変化に見舞われている業界があります。こちらは地球温暖化の影響でしょうか、これまでの漁場でサンマやイカが収穫できないという事態が起きています。なんらかの事情で魚群がこれまで回遊していたルートを離れ、別の場所に移ったのではないかといわれています。

 当然漁船の側は農耕民族的にこれまでと同じ漁場でひたすら魚群が戻ってくるのを待つのは得策ではありません。レーダーやソナーを駆使し、仲間の船からの情報を交換しながら、新しい漁場を探索する。これが狩猟民族的な経営思考です。しかし、たとえそのように場所を変えたとしても、かつての北海道のニシン漁のように結局魚は戻ってこないという未来さえありうる。漁船の経営者としては恒久的な変化を想定すべき状況なのかもしれません。

 それと同じ理屈で、飲食店の経営でもコロナ禍が過ぎた後、以前と同様に顧客が戻ってくるかどうかを真剣に検討する必要があります。アフターコロナの新しい日常で行動が変わるのはビジネス客だけではありません。住宅街の飲食店でのママ会や女子会といったように変わらなそうな需要ですら、新しい日常でその成立基盤が変わってしまう可能性は十分にあります。

狩猟民族的な発想と行動

 実はこれは飲食店に限らず、観光業、ホテル、小売店、製造業、サービス業すべての経営者にいえることなのですが、アフターコロナの新しい日常では、業界が過剰キャパシティになってしまっている業界が続出するはずなのです。

 今回は象徴として飲食業を挙げさせていただきましたが、新しい日常では消費者の行動スタイルが変化してしまうため、これまでと同じ規模の需要がなくなってしまう。そのような前提であるにもかかわらず、同業他社含めて少しだけの閉店や休業でじっと農耕民族的にコロナ禍の嵐が過ぎるのをひたすら待っている。こういった業界が多いのです。

「仮に2022年夏になっても需要が以前の3割減にとどまってしまったら、うちのお店はやっていけるのだろうか?」

 この質問を真剣に考えたうえで、その答えによってはいったん店や会社を閉じ、来るべき2022年夏には違う展開ができるように身軽になって準備する。そのような狩猟民族的な発想と行動が必要な企業やお店は、少なくないのかもしれないのです。

(文=鈴木貴博/百年コンサルティング代表取締役)

鈴木貴博/百年コンサルティング代表取締役

鈴木貴博/百年コンサルティング代表取締役

事業戦略コンサルタント。百年コンサルティング代表取締役。1986年、ボストンコンサルティンググループ入社。持ち前の分析力と洞察力を武器に、企業間の複雑な競争原理を解明する専門家として13年にわたり活躍。伝説のコンサルタントと呼ばれる。ネットイヤーグループ(東証マザーズ上場)の起業に参画後、03年に独立し、百年コンサルティングを創業。以来、最も創造的でかつ「がつん!」とインパクトのある事業戦略作りができるアドバイザーとして大企業からの注文が途絶えたことがない。主な著書に『日本経済復活の書』『日本経済予言の書』(PHP研究所)、『戦略思考トレーニング』シリーズ(日本経済新聞出版社)、『仕事消滅』(講談社)などがある。
百年コンサルティング 代表 鈴木貴博公式ページ

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