公的年金というのは貯蓄ではなくて保険なのです。保険というのは万が一に備えるためのものですから、いわばギャンブルのようなものです。生命保険の「万が一」というのは、万が一死んだときに残された人が経済的に困ることのないようにするため、火災保険というのは、万が一火事に遭って家がなくなってしまった時に保険金でまた建てられることができるようにするためのものです。
では、年金というのはどんな「万が一」のための保険かというと“万が一長生きした時のための保険”なのです。早く死ねば払い込んだ保険料が損、そして長生きすればするほど得をするというのが年金なのです。生命保険の場合は保険期間中に死ななければ保険料は損だし、加入したとたんに死ねば、ほとんど保険料を払わずに大金がおりますから大儲けです。でも死んでしまったら、本人にとっては儲けも何もありませんよね。保険というのは損得で考えるべきものではないのです。
年金も同様で、早く死ねば損だというのはその通りですが、死んでしまえば損も得もありません。長生きしてお金がなくなってしまうという恐ろしい事態にならないようにするためのものなのです。
お金がなくなるというリスク
そうはいっても、どうしても損得を知りたい人は以下の図をご覧ください。何歳まで生きたら、どちらのほうが得かということを表にしてあります。
ご覧のように60歳から受け取り始めるのと、通常の65歳から受け取り始めるのを比較すると、その差が逆転するのは76歳です。同様に65歳と70歳ではその差が逆転するのは81歳となり、その後は長生きすればするほど差が開いていきます。
したがって、自分が確実に76歳までに死ぬことがわかっていれば60歳から繰り上げ支給すればいいし、81歳までには絶対死ぬというのであれば繰り下げずに65歳から通常受給すればいいということになります。
しかしながら、何歳まで生きるかなどということは誰にもわからないことです。繰り下げしたのに早死にしちゃったから年金がもらえなくて損だというのは、理屈ではその通りですが、死んでしまえばなんの関係もない話です。それよりもむしろ、長生きしてしまった時にお金がなくなるというリスクを考えたほうがいいのではないか、というのが私の考えです。
70歳までは無理しない程度に働き、その報酬とそれまでに蓄えた分を合わせて生活資金とするという計画はどうでしょう。蓄えたお金を老後に備えて投資で増やそうという考えもわかりますが、それはあくまでもうまくいけばという話です。それよりも今持っているお金で生活し、公的年金は70歳まで遅らせることで42%増しで受け取りながらゆったりと暮らしていくというのも、悪くないプランではないでしょうか。
(文=大江英樹/オフィス・リベルタス代表)