元国税局職員、さんきゅう倉田です。好きな車は「電気自動車」です。
会社を経営している立場の方は、なんとか法人税を少なくしたいと考えるものです。しかし、闇雲に備品を購入したり、交際費を増やすわけにはいきません。そこで、社長の趣味と連動した買い物で損金を増やそうとするケースがよく見られます。時計を買ったり、絵を買ったり、自動車を買ったり、船を買ったり……。しかし、それらには法人の損金にできるものとできないものがあります。
損金にしようと思ったら、「減価償却ができるかどうか」が分かれ目です。今回は、ある法人がクルーザーとフェラーリを購入し、損金算入していたところ、一方が否認され、もう一方が認容された事案を紹介します。
消費者金融業を営むある法人に、税務調査が入りました。その法人の減価償却資産表には、クルーザーとフェラーリが記載されています。調査官が話を聞くと、クルーザーは取引先の接待、および従業員の福利厚生に使用しており、フェラーリは役員の通勤、および移動の際の交通手段としているとのことでした。
これに対し、どちらも代表者の個人的趣味で購入されたものであり、法人の事業用資産ではなく代表者の個人資産であるとされ、損金算入を否認、代表者への役員賞与とされたのが今回の調査です。
つまり、法人は、法人税と源泉所得税と過少申告加算税と延滞税を納めなければいけなくなります。そこで法人は不服申立を行い、国税不服審判所の判断を仰ぐことにしました。
法人は、クルーザーが事業用資産である根拠として、従業員の福利厚生に使っているし、接待で船釣りを行っている。フェラーリも交通手段として使っているし、スポーツカーのような趣味的なものではない、と主張しました。
これに対し国税不服審判所は、クルーザーは運行実績がなく、いつ誰をどのような目的で乗船させたのかの説明もないため、事業の用に供したか確認することができない、また福利厚生として使用した実績も確認できないとして、減価償却費の損金算入を否認しました。代表者の個人的な資産の購入であるとされたのです。
フェラーリ購入代金の損金算入が認められたワケ
このように、クルーザーを購入して、その使用状況が法人の業務と関係がないような事案は散見されます。買えば損金にできると安易に判断して、その使用状況に留意しないと、容易に否認の対象となりえます。
フェラーリについては、もっぱら代表者が通勤に使用していましたが、法人から代表者に対し、通勤手当や移動に伴う旅費の支給はありませんでした。つまり、代表者の通勤手段が車であることが前提の処理だったといえます。そうすると、法人が車両を用意することには合理性があります。また、代表者は、外国のメーカーの車を個人的に3台所有しており、それはフェラーリとは明確に区別されていたようです。その3台は、あくまで代表者が個人的に購入したもので、フェラーリのみが通勤用として法人の損金にされていました。これらに鑑みて、フェラーリの損金算入は認められることとなりました。
フェラーリの使用が、代表者の個人的な趣味の影響を受けていることは想定できますが、それでも、事業の用に供されている、つまり仕事で使っているならば、会社の損金にできた、いわゆる「経費」にすることができた事案です。
仕事で使っていなければ、原付自転車であろうと軽自動車であろうと、法人の損金にはできません。この事例は、この基本的なルールに基づいて判断されたのです。
よって、一般的に「クルーザーはだめで、フェラーリは良い」というわけではなく、事業関連性に注意して判断することが大切です。「仕事に関係ないものは法人の経費にできない」ということを認識し、購入を検討するといいと思います。
(文=さんきゅう倉田/元国税局職員、お笑い芸人)