元国税局職員さんきゅう倉田です。好きな調査は「任意調査」です。
一度税務調査が行われれば、3年ないし5年は調査が行われないといわれています。調査効率を上げるために、一度に調査できる年数の分だけ間をあけてから調査に着手するわけです。ただ、何か特別な情報や新たな疑義があれば別です。「去年調査があったのに、今年もまた来た」といったことがあるやもしれません。
それは、税務署の調査の後に税務署が来ることもあれば、税務署の調査の後に国税局査察部が来ることもあります。いわゆる「マルサ」です。
マルサが強制調査をするためには、内定班の情報収集が必須ですが、銀行に行くこともありますし、対象者の店舗で張り込むこともありますし、税務署にある申告書や調査情報を閲覧することもあります。
税務署が見逃した不正をマルサが暴く
ある査察官が税務署で、法人A(仮名)の確定申告書や前回調査資料を見ていたときのことです。確定申告書には、取引銀行とその残高、主要取引先などの情報が載っています。それを眺めていると、ふと違和感を覚えたそうです。税務署の職員には、調査1年目からベテランまでいるので、査察官とは大きく経験値が異なる可能性があります。新人調査官が気付かなかった端緒も、査察官が見れば明白かもしれません。
この査察官が怪しいと思ったのは、Aの主要な取引先です。○○企画とか、△△興行が複数並んでいて、近年、取引が始まったのに、取引額はもっとも多くなっています。さらに、売り上げは大きく伸びているのに所得は微増という、利益調整の可能性を感じさせる申告内容となっていました。新しく増えた主要な取引先がなければ、高額の法人税を支払うことになっていたでしょう。
確定申告書に載っている取引先の情報は、法人名、年間の取引金額、法人所在地です。法人名と所在地があれば、国税局のデータベースにアクセスして、その法人について調べることができます。1社調べるのに、時間にしておよそ1分。○○企画や△△興行という法人が存在しない可能性もありましたが、ちゃんと登記されている法人で、住所も正確でした。ただし、それらは無申告だったのです。