マンションの購入・売却検討者27万人の会員を有するポータルサイト「住まいサーフィン」を運営するスタイルアクトでは、毎年「売主別中古マンション値上がり率ランキング」をまとめて公表しています。それによると、関東圏では日鉄興和不動産の「リビオ」マンションがトップで、関西圏では阪急阪神不動産の「ジオ」シリーズが1位になりました。
分譲時からの値上がり率を経過年数で割る
この調査は2008年に竣工した新築分譲マンションを対象にしています。各住戸の新築分譲時の価格に対して、2020年10月から2021年6月までの間に中古マンションとして売り出された価格の値上がり率を算出、それを2021年10月までの経過年数で割ることによって、年間当たりの上昇率を計算しています。計算式は次のようになります。
・中古売出し価格÷新築分譲時価格÷経過年数
たとえば、分譲時の価格が5000万円、中古売出し価格が6000万円で、経過年数が8年とすれば、6000万円÷5000万円=1.20で、8年間の上昇率は20%ですから、それを8年で割ると年当たり2.5%ということになります。関東圏では年間20棟以上、関西圏では年間15棟以上の分譲を行った不動産会社を対象にしています。その条件を満たす分譲会社のうち、上位10社のランキングを公表しています。
立地を重視する不動産会社が上位にあがる
いうまでないことですが、どうせマンションを買うのであれば、将来より高く売れる可能性のある、資産価値の高い物件を手に入れたいものです。
その場合、何よりも大切なのが立地です。マンションの資産価値の80%程度は立地によって決まるといっても過言ではありません。いかに、建物のデザインや設備・仕様などにこだわっても、立地のいいマンションにはかないません。
ですから、値上がり率ランキングにおいても、値上がりしそうな好立地の場所を選んで分譲している不動産会社が上位に上がることになります。いってみれば、マンションの善し悪しということではなく、立地の善し悪しで決まるということです。ですから、ランキングの上位にあがっている分譲会社のマンションだからといって、必ずしも住みやすいマンションとは限りません。主に立地の善し悪しで決まる値上がり率のランキングにすぎないので、念のために。
関東圏の1位の「リビオ」は年率3.51%アップ
ともあれ、ランキングを紹介しましょう。関東圏のベスト10は図表1にある通りです。
トップは「リビオ」シリーズマンションの日鉄興和不動産で、1年当たりの値上がり率は3.51%でした。ただし、他の大手不動産に比べると物件数は少なく、対象となったのは31棟で、この1年間の取引事例は368件です。
逆にいえば、それだけ資産価値の上昇が期待できる立地に絞り込んで分譲を行っているということがいえます。ランキングをまとめたスタイルアクトでも、リリースのなかで次のように評価しています。
「(日鉄興和不動産は)都市型のライフスタイルを意識したマンションを供給しています。首都圏を中心に土地を厳選し、富裕層や単身者・ファミリー層など幅広いターゲットの多様なニーズに合った商品を企画することで、物件に対する品質評価と立地の希少性の双方が中古市場でも高く評価され、関東圏において6年連続で値上がり率1位となりました」
物件の品質とともに、立地の良さが値上がり率1位に大きく貢献しているわけです。
三井不動産は超高層など大規模物件に強み
ただ、対象となる棟数が少ないということは、買う側からすれば、希望のエリアに必ずしも「リビオ」マンションが出てくるとは限らないという問題があります。「リビオ」にこだわるのではあれば、ジックリと時間をかけて希望エリアに出てくるの待つか、資産価値優先で希望エリアを見直すか、どちらかの判断になるでしょう。
この日鉄興和不動産に続いて2位に入ったのは、三井不動産レジデンシャル。1年当たりの値上がり率は3.28%でした。対象となったマンションの棟数は102棟と、日鉄興和不動産の3倍以上あって、幅広いエリアに、それぞれのエリアに対応したブランドのマンションを供給しています。なかでも、「パークタワー」などの超高層の大規模物件が人気を集めて、中古マンション市場でも高い価格で取引されています。それが、値上がり率全体を大きく押し上げているようです。
スタイルアクトによると、それに加えて系列の管理会社が、顧客満足度調査で2位に入るなど、管理の充実も値上がり率の高さに貢献しているのではないかとしています。
3位の東急不動産までは3%台の値上がり率
3位には「ブランズ」シリーズの東急不動産が入りました。年当たりの値上がり率は3.15%です。値上がり率が3%を超えたのは日鉄興和不動産、三井不動産レジデンシャルとこの東急不動産の3社のみで、4位以下は2%台、1%台にとどまっています。
東急不動産は、いうまでもなく、東急東横線、東急田園都市線といった人気沿線に強みを持ち、それが値上がり率の高さにつながっています。あわせて、近年では江東区・豊洲などの都心周辺エリアで超高層マンションなどを手がけ、文教地区として人気の高い文京区でもさまざまな「ブランズ」シリーズのマンションを分譲しています。
そのほか、4位には大手不動産会社の三菱地所レジデンスが入り、6位に野村不動産、そして10位に住友不動産が入っています。大手のなかでは住友不動産の値上がり率が1.95%と比較的低い水準にとどまっていますが、同社は分譲価格の設定が強気の値付けで、「絶対に値下げしない」といわれており、それが値上がり率の低さにつながっているのかもしれません。
人気の阪急沿線に強い「ジオ」シリーズ
関西圏の平均値上がり率のランキングは図表2にある通りです。トップに立ったのは「ジオ」シリーズのマンションで知られる阪急阪神不動産で、1年当たりの平均値上がり率は2.61%でした。同社が関西圏の1位を記録したのはこれで5年連続です。関東圏の日鉄興和不動産の6年連続と同様に、不動の地位を確保しているといってもいいかもしれません。
その強みについて、スタイルアクトは次のように評価しています。
「阪急阪神不動産のマンションブランド『ジオ』は、関西の中で比較的高額なブランドとして認知されていますが、更に価格を上昇させたのは、沿線全体の開発による底上げや、地域貢献などのブランドイメージと、購入者の期待を裏切らない品質によるもので、関西圏の値上がり率5年連続1位となりました」
京阪神間でも、阪急沿線は特に人気が高く、阪急阪神不動産はその阪急沿線に強いほか、景観条例などの関係で供給が難しい京都市内にも強い実績を持っています。
関西地盤の地元企業も上位に入る
関西圏の2位には、関東圏でも2位だった三井不動産レジデンシャルが入りました。値上がり率は2.46%で、スタイルアクトでは、「幅広いエリアに多くの物件を供給しながらも、各立地に適切なブランドでの提供で、現在の不動産市場においても多くの世帯が購入できる価格でマンションを供給し、関西の値上がり率でも2位となりました」としています。
さらに、3位には大和ハウス工業が入りました。プレハブ住宅メーカーとしてスタートした同社は、創業の地である関西に強みを持ち、多数の「プレミスト」シリーズのマンションを手がけています。
関西圏のトップ10には、全国的にはまださほど名前を知られていない、地元不動産会社も多くラインインしています。たとえば、5位の睦備建設は「パデシオン」、8位の日商エステムは「エステムコート」などの居住用不動産のほか、投資用物件も手がけています。また、9位の日本エスコンは「ネバーランド」シリーズのマンション分譲などを行っています。
以上、みてきたように、マンションの値上が率の上位に上がった分譲会社には、それぞれに値上がり率が高い事情があります。単に値上がり率の数字をみるだけではなく、背景にある要因も十分に考慮しながら、物件選びに活かしていただきたいところです。
(文=山下和之/住宅ジャーナリスト)