だから、修繕積立金のほうをわざと安くする。例えば、売主が「このマンションなら月々の負担は3万円が上限だろう」と考えたとする。販売価格が4000万円台のファミリーマンションなら、購入層の世帯年収は500万円から700万円。月々支払う管理費等が4万円に迫っていたりすると「このマンション、気に入ったけれど管理費が高いから別の物件にしよう」と逃げられてしまう。
業務を受託する予定の管理会社がソロバンをはじくと、どうしても1戸あたり月額2.2万円の管理費を負担してもらわなければならない、ということになった。さらに、そのマンションの中長期のメンテナンスを考えた場合、修繕積立金も1戸当たり月額2.0万円ほどが必要だというシミュレーションになったとする。合計は4.2万円。売主の想定を1.2万円ほど超えている。この場合、どうなるのか。
修繕積立金を無理矢理0.8万円に設定するのだ。そうすれば月額負担は3万円に収まる。そして、修繕積立金の足りない分は15年程の年月をかけて徐々に値上げして、最終的に当初の3倍くらいとなる長期修繕計画をつくる。
新築マンションを購入する人々は、だいたいは気持ちが舞い上がっている。いったん購入を決めた後で詳しい説明を受ける長期修繕計画なんて、注意深くは聞いていない。仮に「10年先には修繕積立金が倍に値上げされる」というようなことを聞かされても、現実感がない。「その頃には年収も上がっているだろう」くらいに考える人がほとんどではないか。
しかし、10年先、15年先は確実にやってくる未来だ。
さて、管理会社が利益をしっかり確保できるように決められた管理費はどうなるのか。
新築マンションの引渡しが始まって1年ほどすると、第1回の管理組合総会という区分所有者が全員出席すべき会合が開催される。この総会の目的は主に決算と予算の承認。各区分所有者から管理組合へと集められた管理費や修繕積立金が、前年はどこにどのように使われ、今年はどこにどう使うかということを示して、出席した組合員の過半数が承認すればOK、ということになる。
ここで多くの区分所有者たちは「あの管理会社にこんなに払っているのか」ということを知る。そして「親会社は売主の・・社だから仕方がないか」と考える人と、「それはおかしい」というタイプに分かれる。後者の勢力が強くなったりすると、「管理会社に払っている委託費は高くないか」と考え始め、「だったら管理会社を変えればいいじゃないか」という結論に進んでいく。