リプレースで管理会社に支払う業務委託費が軽減できれば、その分を修繕積立金の会計に回して、予定されている値上げを回避できるかもしれない。そういう考えも自然に浮かんでくる。これがリプレースのパターンであった。
数年前まで「リプレースを行いますので貴社に業務内容と見積もりのプレゼンテーションをお願いします」と、複数の管理会社に声を掛ければ、どこも喜んでプレゼンに参加してくるのが普通だった。
ところが、今は違う。冒頭にも述べたように、今は管理会社側の売り手市場になっている。管理会社にとって、よほど美味しそう(儲かりそう)なマンションでない限り、手間もひまも費用もかかるプレゼンテーションを行ってまで、彼らは仕事を取りに来ようとはしない。
管理会社側が強いのか?
なぜ売り手市場になってしまったのか。
最大の原因は人手不足だ。管理員のなり手が急減してしまった。だから「新たに受託しても派遣する管理員が見つからない」というのが今の状況。さらに踏み込めば、現状で管理業務を受託中のマンションでも、業務委託費の減額を要求されたりリプレースの動きが出ているのがわかると、「では、契約期間終了後の延長は致しかねます」という通告ひとつで業務を打ち切ってしまう。
そういうマンションの管理組合では、次の管理会社を探すのが大変だ。もしかしたら、前の管理会社に払っていたより高い委託費での契約を飲まなければいけなくなるかもしれない。それほどに、今は管理会社側が強い。
そうなった場合、管理組合側では管理費の値上げに追い込まれる可能性もある。そんなことになれば、修繕積立金の値上げを回避するどころではない。さらに各区分所有者の負担が増えるのだ。管理費や修繕積立金の総額が「新築時は月額3万円だったのに、15年後には5万円を超えていた」といった現象も、これからは珍しくなくなるだろう。
人手不足によるマンション保有のハイコスト化――。
この動きはすでに始まっていて、その流れが変わることはないだろう。その内、外国人の管理員も現れそうだ。そうなったとしても、彼らの賃金が日本人よりも有意なほど安くはないはず。5年先、10年先、「マンションは買いたいけれど管理費関係が高すぎるから」と、購入を諦める人が多くなっているだろう。
また月々の支払額を基準に、物件価格がより安い中古マンションが好まれるようになると、流通市場には強力な下落圧力となってくるはずだ。
(文=榊淳司/榊マンション市場研究所主宰、住宅ジャーナリスト)