学び合う孫正義と柳井正、経営の共通点と差異点 科学的なユニクロ、勝負のソフトバンク
米国の投資週刊誌「バロンズ」が「世界のベストCEO」を毎年公表しています。直近の発表が3月号であったのですが、今年のリストにはソフトバンクの孫正義氏が初めてランクインしました。日本人経営者としては、ほかにはユニクロなどを展開するファーストリテイリングの柳井正氏が以前からランクインしていました。
孫氏と柳井氏は、手腕と実績が世界的にも認知されている経営者です。この2人は確かに一代で事業を立ち上げ、グループ年商で兆円規模のビジネスに育て上げました。正確に言えば、柳井氏は小郡(おごおり)商事という山口市にある地方の零細ともいえる洋品店の2代目を継いだわけですが、現在のファストリのグループ規模を考えると、実質的な創業者とみるべきでしょう。
この2人は経営スタイルや信条の上でいくつもの共通点がありますが、もちろん異なるところもあります。そこで本連載では、2人の共通点と差異点を考えてみたいと思います。
●尊敬し、学び合う2大経営者
通信やITビジネスで手広く展開しているソフトバンク・グループの孫氏と、ユニクロに代表されるファッション流通業に比較的特化して、いわば“業態深掘り”している柳井氏。この異なる業界で活躍している2大経営者は、実は結構長く深い接点があります。
2人の出会いは1994年で、両社は偶然同じ年に上場を果たしています。ソフトバンクは店頭公開を果たし、ファストリは地元広島証券取引所に上場しました。孫氏がその店頭公開前に、イトーヨーカ堂の創業者・伊藤雅俊氏に「誰か、いい経営者を紹介してほしい」と懇請したところ、紹介されたのが柳井氏だったという縁です。柳井氏のほうも、当時話題となっていた孫氏の日次決算やコンピュータを活用したコックピット経営と呼ばれる孫流の経営技法に興味があり、それらを孫氏から学んだといわれています。
2人は、いわばお互いを尊敬できる先進的な経営者として認識したのですが、本格的な関係ができたのが2003年でした。同年、ソフトバンクがインターネットサービスプロバイダサービス「ヤフーBB」を始めるのに当たり、本格的なBtoCビジネスは初めてということで、柳井氏をソフトバンクの社外取締役に招請して今日に至っています。
2人はこのように互いを尊敬し、互いから学び合っているように見えます。また、お互いの理解者であり、最大の社外応援団にも見えます。孫氏が06年にボーダフォンを買収した時、1兆7500億円という破格とされた価格に対し、柳井氏はソフトバンクの役員会で真っ先に支持、つまり支援をしました。翻って今、この買収劇を振り返ってみれば大成功、どころかそれなくては現在のソフトバンクの隆盛はない、というくらいの意思決定だったわけです。