ITベンチャーの成功者には、「オヤジたらし」と呼ばれる人が少なくない。ソフトバンクの孫正義氏は電通の成田豊氏、ドワンゴの川上量生氏はスタジオジブリの鈴木敏夫氏から寵愛を受け、さまざまな形でコラボレートしている。
そして、『ぼくらの地球規模イノベーション戦略―――IT分野・日本人特許資産規模№1社長のこれまでと次の挑戦』(ダイヤモンド社/刊)を読むと、本書の著者である菅谷俊二氏も彼らにひけをとらないオヤジたらしであることが伝わってくる。
菅谷氏は佐賀大学在学中、中学・高校時代の同級生とともにビジネスをはじめ、2000年に同社を創業した。インターネット動画広告サービスからスタートし、現在はパソコンやスマートフォン・タブレットのような通信機器だけでなく、さまざまな物体にも通信機能を持たせ、インターネットに接続したり、機器同士互いに通信させるIoT(モノのインターネット)プラットフォームサービスを手がけている。
本書によれば、創業当初は資金不足のために、本社のあった佐賀から東京へ赴いて営業をおこなう際には、公園の土管のなかで寝起きすることもあったという。そんな同社だが、2014年にはマザーズ上場を果たし、いまや時価総額350億円を誇るほどの規模へと成長した。
本書では、菅谷氏が大学在学時にアルバイトをしていた先の親会社社長、橋口弘之氏に出資と経営上のアドバイスを求めた際のエピソードが紹介されている。親子ほど歳の離れた両氏のやりとりのなかで特に印象的なのは、橋口氏がこれらのオファーを受けたあとの話だ。
出資が決まったのを機に、菅谷氏は大学を辞めて会社を立ち上げると両親に伝えたところ、とても心配された。そこで橋口氏に間に入ってもらい、大学中退を後押ししてもらおうと考えたという。
しかし橋口氏は「ご両親の気持ちを考えれば、息子さんが大学を辞めることを了承してほしいとは言えない」と、大学中退に関してだけは力を貸さなかった。このときのことを菅谷氏は「投資家の目線からすれば、わたしが大学を辞めて事業を大きくしたほうが得。それなのに両親の気持ちを大切にしてくださった」と振り返っている。
このエピソードから、両氏が「投資される側-投資する側」という関係を越えたところで、深い信頼関係を築いていたことがわかる。事業だけでなく人生そのものまでバックアップしたくなる。ここに菅谷氏のオヤジたらしたる所以が見てとれるのだ。
本書の随所で、菅谷氏をこれまでサポートしてきた人たちによるコメントが寄せられている点も見逃せない。SBI証券代表取締役社長・高村正人氏、慶應義塾大学教授・飯盛義徳氏、佐賀新聞社代表取締役社長・中尾清一郎氏、日本マイクロソフト業務執行役員・小野田哲也氏と錚々たる顔ぶれが揃う。
小野田氏は菅谷氏について、こう評する。
「企業の規模を問わず、経営の深いところに入り込んでコネクションを確立できる稀有な経営者であり(中略)、大物に可愛がられています。この『オヤジたらし』の特長は、孫正義氏と似たものを感じますね」(P191より引用)
こうコメントした上で、小野田氏は「オヤジたらし」の条件として以下の3点を挙げている。
・裏表がない
・やりたいことをやりたいとストレートに表現できる
・信念を持っている
菅谷氏はこの3点をすべて満たしているという。たしかにこれらの資質を持っている人が身近にいれば力を貸したくなるのではないか。
ビジネスの場において、ひとりでできることは限られている。最近カベにぶち当たっているという人は、自力でそれを乗り越えようとするのではなく、「まわりの人の力をうまく借りるには」と発想をかえてみることで新たな突破口が見出されるかもしれない。
(新刊JP編集部)
※本記事は、「新刊JP」より提供されたものです。