行動には、どうしても摩擦が伴う。組織の中であればなおさらだ。どうしたら摩擦を少なく、よりうまく仕事を進めることができるだろう。ひとつのエピソードを紹介したい。
ある会社の社長から「社員にひとり問題児がいる」との相談があった。だが、問題児はどの会社にもいるので、さほど珍しくない相談だ。そこで、「どんな問題を起こすのですか?」と聞いたところ、「周りの意見を聞かず、勝手に仕事を進めてしまう」という。
私はそれを聞き、ひとつの疑問が浮かんだ。社長は普段から、「社員がなかなか自分から動かない」と言っていた。「もっと指示を待たずに、自分から動いてくれるといいのに」とも言っていた。しかし、実際にそのような人が出てくると、今度は「周りの意見を聞かず、勝手に仕事を進めてしまう」という。
では、その境界はどこに存在するのか?
「自分から動ける人」と「勝手なことをする人」の差
(安達裕哉/日本実業出版社)
これはぜひ聞いてみたい。私はその社長に、「『自分から動いてくれる人』と、『勝手に仕事を進めてしまう人』の差とは、なんですか?」と聞いてみた。
社長は考え込んでいたが、ゆっくり話し始めた。
社長:うーん、はっきりとした言葉にするのは少し難しいけれど、こちらの安心感があるか、ないかの違いかな。
私:具体的には、どのようなことですか?
社長:「指示を待たずに自分から動いてくれ」というのは、もちろん条件がある。ひとつは与えられている権限をきちんと理解しているか。勝手に契約などされては困る。この人は権限をきちんと理解しているという安心感があれば、こちらの指示を待つ必要はない。
私:なるほど。それはそうですね。
社長:あとは、周りの人への配慮ができる人かどうか、かな。勝手に動くということは、人によっては反感を持つ人もいる。これは私がどんなに「自分から動いてくれ」と言っても、一定数は保守的な人がいるものだ。そういう人へ配慮しつつやってくれることが望ましい。揉め事を起こせば、周りからその人が孤立してしまう。それは困る。
私:なるほど。ということは、「自分から動いてほしい人」と、「勝手に動いてほしくない人」がいるということですね?
社長:そのとおりだが、そのように社内にアナウンスはできないだろう。平等という観点からいっても無理だ。