異色の経済書が登場しました。「堅苦しい理屈を勉強しなさい」でも「最低これくらいは知っておいてね」でもなく、「頭の体操を楽しみながら、経済の仕組みを一緒に考えてみよう」という本で、筆者自身も「頭の体操を楽しみながら」執筆したという一冊です。
本書のタイトルは『なんだ、そうなのか! 経済入門』(塚崎公義/著、日本経済新聞出版社/刊)。著者が当初「いまさら聞けない経済の仕組み-目から鱗の謎解きを楽しもう」というタイトルを考えていたというのも頷けるほど、本書には「目から鱗」な発見が散りばめられています。
■ブッフェで「満腹なのに食べ続ける」のは得か損か
たとえば、「ブッフェスタイル(食べ放題)のレストランは、なぜ潰れないのか」について。食欲旺盛で「元がとれる」自信のある客も来店するのですから、「潰れてもおかしくないのでは…」と思う人も少なくないかもしれません。これに対して本書は、「コックさんが一度に大量に作ることでコストが安くなる」ことなどを引き合いに出しながら、疑問を解消してくれます。加えて、何皿食べると一番客の満足度が大きいのか、といったことにも触れています。無理をして腹一杯食べると満足度が落ちるので、そこまでは食べないのが正しい、というわけです。たしかに、ブッフェスタイルのレストランでは、「元をとる」事を最優先に考えて「満腹だけれども無理して食べ続ける」客がいますよね。そうした客にならないように、ということに気づかせてくれるわけです。
学園祭の模擬店で「3000円儲かったから300円ずつ山分け」して喜んでいる学生の話も出てきます。「その時間、学園祭に来ないでバイトしていたらもっと儲かったのでは?」と言われてがっかりするという話です。そして、その発想を企業経営にも応用して、「エリートを集めた部署が少額の利益を稼いでいたらどうするか」に考えを及ばせています。「利益が出ているけれども、その部署を解散してエリートたちを他の部署に異動させたら、更に大きな利益が出るかも」という可能性を指摘しているのです。たしかに、利益が出ているプロジェクトを廃止するという発想自体が浮かばない経営者も多いでしょうから、こうした指摘は「目から鱗」ですね。
企業が工場を建てている途中で事情が変わり工場が不要になったにもかかわらず「これまでの出費を無駄にしないために」工場を最後まで建設する会社は多いでしょう。こうした不合理な決定がなされる背景には、「損を確定したくない」という経営者の心理が働いていると著者は指摘し、「工場の建設を続けても、既に支払ってしまったコストは戻らないのだから、前向き思考で考えよう」と提言します。
ただ、こうした心理の背景に、損が確定したことで「自分はバカだ」と思うのが嫌だ、といった思いがあると、事は容易ではありません。まして工場建設を決めた重役がバカだ、ということにもなりかねないようでは、工事の中止を言い出すサラリーマンは大変な決意が必要でしょう。そうしたメカニズムを明らかにした上で、読者に正しい意思決定を促しているのが本書なのです。
また、最も注目すべきは、著者が「日本の財政は破綻しない」と断言している部分です。さすがに「ここは暴論です」と宣言した上で、過激な見解を述べているのですが、それに対して著者自身、「反論を考えながらお読みいただきたいと思います。その際、『常識的ではないから』というのはダメで、具体的にどこがどう間違っているのか、指摘しようと努力してください。読者が反論を思いつかずに筆者に賛同していただければ、筆者としては大変うれしいことですが」と記しています。