隣のデスクにコンピュータが来たら「あきらめる」
–時間的な外部性としては、どんな方法があるのでしょうか?
西 例えば、ある日、隣のデスクに超優秀なコンピュータがやってきて、「これから、君の仕事は全部こいつがやってくれる」となったら、どうしますか? 多くの人は、あがいて、目先の解決策をひねり出して「延命処置」をすると思います。しかし、いくらいまのスキルを向上させても、もはやそのコンピュータにはかなわないでしょう。それが時代の変化というものです。
だから、私は「あきらめる」というのが一番いい方法だと思います。「いま、ここ」を基準に思考するから、無駄で不毛な延命策しか思いつかないのです。そこから3歩も4歩も下がり、原点に立ち戻ってから、「じゃあ、どこに可能性を見いだしていくか」を考えたほうがいいと思います。
そうすると、「自分のこの作業は、なんの役に立っているのか」「この取引が成立するのは、なぜなのか」「この仕事によって、どこにお金が回り、誰の利益になるのか」「そもそも、この仕事はなぜあるのか」ということについて、思いを巡らすことになると思います。
–普段、習慣的に目の前の仕事を片付けていると、なかなかそこまで深く思考することはできません。
西 それも当然だと思いますが、「いま、ここ」の絶対性に閉じ込められてしまい、外の世界に広がっているはずの多様性に気づかないというリスクは、想像以上に大きいと思います。
例えば、ブラック企業で疲弊している人が「この会社しかない」「この仕事しかない」という思いで、つらい毎日を送っている。しかし、本当に「その会社(仕事)しかない」のでしょうか?
そんな時、自分と距離を置くことで、次の可能性を見いだすことができるかもしれません。「いま、ここ」からの解放によって、逆説的に自分の立ち位置、つまり自分の「いま、ここ」ですね、それがはっきりしてくるということです。
逆に、「いま、ここ」だけを見て、逃げ道を見いだそうとしたり、その場しのぎでやり過ごそうとしても、なんの解決にもなりません。
『仕事のエッセンス 「はたらく」ことで自由になる』 なぜあなたは働くのか? 「働く」とはどういうことなのか? これから社会で働こうとしている人や、今の働き方に疑問を感じている多くの人にとっては、「なぜ働くのか」「働く」とはどういうことか、という原点に立ち返って考えてみることは重要なことなのです。