「分業」は社会人の特権
–本書では、「個」が重視される時代についても触れています。
西 個の力だけではなく、他と協働できる個の力も大切です。先ほどの「コンピュータが来たら、あきらめる」という話もそうですが、「自分にできないことは、ほかの誰かにやってもらう」というスタンスが重要です。
例えば、「全部自分でやらなきゃ」というのが学生時代。「数学は苦手だから、代わりにテストを受けておいて」なんてことはできませんが、社会人であれば「自分ができないことを人にやってもらい、その人ができないことを自分がやる」という分業ができます。当たり前ですが、そのために無数の会社があり、会社の中でも多くの部署に分かれているわけです。結果的に自分を含めた全体としての生産性が上がればいいのです。
それには、仕事を人に任せ、また人から自分に仕事を任せられるだけの「人間力」が必要になってきます。これは「人を信頼する力と、人に信頼される力」と言い換えてもいいかもしれません。
グーグルでは、採用面接の最後に「エアポートテスト」というのを行います。これは、面接官が「空港で飛行機が欠航になり、近隣のホテルもいっぱい」という状況を想定して、「この人(求職者)と空港で一晩一緒に過ごすことになっても、耐えられるか」と自問自答するものです。そして、「朝まで一緒にいられそうだ」と思えば、採用に至るわけです。
つまり、「多くの知識や高いスキルを持っていることも大事だが、企業側は、より性格のいい人を雇おうとしている」ということです。いまの時代、知識やスキルは、必要に応じていくらでもアウトソーシングできます。だからこそ、「共に働きたい」と思える人を採用するわけです。求職者の側からすれば、「共に働きたい」と思ってもらえる人間であることが、何より重要です。
また、テスラモーターズ会長兼CEOのイーロン・マスク氏は、以下のようなことに焦点を当てることが大切だと説いています。
「企業への貢献において鍵となるのは、人柄であり、周囲の人たちに与えられる影響です。人格を重視すること、その人が善い人物なのか、一緒に働きたいと周りの人が思うか」
–スキルよりも人間性が重視されるということですね。そして、その根底には、「仕事は1人ではできないから、任せたり、任せられたりする。その時に、いい関係性を醸成できるかどうか」という考えがあるということでしょうか。
西 そもそも、誰も全能ではないから「仕事」が生まれたわけです。「すべてを1人ではできないから、誰かがパンを焼いてくれないかな。誰かが道路を掃除してくれないかな」というところから、道を掃く人ができて、パンを焼いて売る人が現れて……。
仕事とは、自分と社会を持続的に接続するものであり、積極的に選択できるものであり、本来は自他共に幸福感を得られるものです。いまの働き方に疑問を感じていたり、仕事を変えることを考えている人は、「なぜ働くのか」「働くとはどういうことか」という原点に立ち返って考えてみることをおすすめします。
–ありがとうございました。
(構成=編集部)
『仕事のエッセンス 「はたらく」ことで自由になる』 なぜあなたは働くのか? 「働く」とはどういうことなのか? これから社会で働こうとしている人や、今の働き方に疑問を感じている多くの人にとっては、「なぜ働くのか」「働く」とはどういうことか、という原点に立ち返って考えてみることは重要なことなのです。