個々の部下に応じたリーダーシップが必要
リーダーシップを発揮する上で、強制力を伴った指導が時には必要となることもあります。米社会心理学者のジョン・フレンチとバートラム・レイブンの「社会的勢力に関する研究」によると、人や組織の行動に影響を与える力には「強制勢力」「報酬的勢力」「正当的勢力」「専門的勢力」「同一視的勢力」があります。そのうちの強制勢力はリーダーシップにおける潜在能力のひとつで、従わない場合に発生する罰の予想から生じる力のことです。先の公開説教で、上司は強制勢力を存分に発揮していました。
ただ、時代の要請で強制勢力の重要性の比重は下がっています。強制勢力が行き過ぎれば部下が辞めてしまうからです。今や従業員の維持・確保は優先度が高い経営課題です。いかに強制勢力を使わずして、部下のモラール(勤労意欲)を向上させていくかがリーダーの腕の見せどころです。
また、今は組織よりも個人に比重が移行している時代です。21世紀は「個人の時代」ともいわれています。この個人を尊重する考え方は今後さらに広がっていくことでしょう。つまり、組織で個人を束縛することが難しくなっていくのです。
そうなると、必要とされるリーダーシップはより個人にフォーカスしたものでなければならないといえるでしょう。もちろん、組織全体を統率するリーダーシップも必要ですが、それ以上に個別的なリーダーシップが重要になってきます。「SL理論」に基づいたリーダーシップが求められるのです。
SL理論とはSituational Leadership(リーダーシップ条件適応理論)の略で、1977年にポール・ハーシーとケン・ブランチャードが提唱したリーダーシップ理論のひとつです。1964年にフィドラーが提唱したコンティンジェンシー(環境適応)理論の応用で、有効なリーダーシップスタイルは、部下の成熟度に応じて変わるという考え方です。
具体的には、部下を個別的に考え成熟度を「未成熟」「やや未成熟」「やや成熟」「成熟」の4つの成長段階に分類します。
未成熟の部下には「指示型リーダーシップ」のスタイルが効果的です。具体的に指示し、行動を促します。
やや未成熟の部下には「コーチ型リーダーシップ」のスタイルが効果的です。こちらの考えを説明し、疑問に答えていきます。