プロ野球選手として戦後初の三冠王を獲得。監督としては南海(選手兼任)、ヤクルト、阪神、社会人のシダックス、そして東北楽天を率い、数々の記録を打ち立ててきた野村克也氏が、2月11日に亡くなった。84歳だった。
選手としてはパ・リーグ一筋で過ごし、人気を博した巨人のON(王・長嶋)に対して、自らを「月見草」と例えた。しかし、捕手ながら2901安打、657本塁打という偉大な成績を残す。その後、ID野球の名のもとにヤクルトを率いて黄金期を築き上げ、楽天では田中将大らを育てるなど、後進にも絶大な影響を及ぼした。
そんな野村氏曰く、自分は何の才能もない男だったが「弱者が強者を倒すためには何をすべきか」を常に考えてきたおかげで、プロの世界で大成することができたという。
その大成を支えたのが「メモ」だった。新人の頃から気づいたことをメモし続け、それを元に強者を倒してきた。
『野村メモ』(日本実業出版社刊)は、日々の気づきを確実に実行することに昇華させるメモの技術を紹介した一冊だ。
■「考える力」を養う――野村克也流メモ術
野村氏は、メモには2つの効用があると語る。
1つ目は「記憶力を高めてくれる(経験したこと、学んだことを忘れにくくする)」こと。2つ目は「観察力、思考力(発想力)を高めてくれる」こと。
野村氏は、この第2の効用に、重要性を実感していると語る。
契約金0のテスト生として南海に入団。3年目に1軍に定着してからは、シーズン中、ずっとメモを取り続け、就寝前にノートをまとめ、その積み重ねによって正捕手の座を獲得した。メモやノートを読み返すことで、改めて気づくことや反省することも出てくる。つまり、そこは「学びの宝庫」なのだ。
このメモが学びとなり、人を育てるのだと野村氏は確信する。
ヤクルト黄金期を築き上げたときも「メモ」がキーだったそうだ。
ミーティング中にしっかりとメモを取るタイプは、大成した選手が多いように感じるという。古田敦也氏、宮本慎也氏、池山隆寛氏、広澤克実氏といった当時のヤクルトの主力選手たちは、しっかりとメモを取っていたそうだ。
そして、ミーティングで聞いた話をメモし、それを読み返しながら自分の中でしっかりと消化する。そういった地道な蓄積がミスを減らすことにつながり、「考える力」を養ってくれると野村氏は指摘する。当時のヤクルトの強さの原動力はメモにあったのだ。
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本書では、メモの取り方についても指南されている。
野村氏の著作は数多いが、そうした膨大な知識や情報、考えの裏にあったものが取り続けてきた「メモ」だったのかもしれない。
気になったこと、気づいたこと、感じたこと、ためになったことをメモしてみる。野村氏のメモ術は人として成長するための武器になるのだ。
(新刊JP編集部)
※本記事は、「新刊JP」より提供されたものです。