大企業を中心に人員削減の流れが強まっている。東京商工リサーチの調査によると、2019年に早期・希望退職者を募集した上場企業はのべ36社、対象人数は1万1351人に達したという。社数、人数ともに14年以降の年間実績を上回り、過去5年間で最多を更新した。また、20年以降もすでに10社を超える実施が判明しており、約2000人の早期・希望退職の募集が予定されている。
目立つのは、業績が好調にもかかわらず将来的なリスクに備えて人員削減を断行するケースだ。この「黒字リストラ」とも呼ばれる動きは、今後も加速するのだろうか。東京商工リサーチ情報本部情報部の二木章吉氏に話を聞いた。
最多は富士通の2850人
――大企業を中心に人員削減の動きが増えていますね。
二木章吉氏(以下、二木) 富士通の2850人を最多に、ルネサスエレクトロニクスが約1500人、子会社の売却や事業の選択と集中を進める東芝が1410人、経営再建中のジャパンディスプレイが1200人と、規模の大きな募集が増えています。一服状態だった人員削減の流れは18年の4126人で底を打ち、19年は一気に3倍増となりました。内容を見ると、業績悪化による「業績不振型リストラ」と、今後を見据えた「先行型リストラ」の二極化が進んでいる印象があります。
――業種別での特徴などはありますか。
二木 アパレル業界の業績不振による人員削減が目立ちます。主に婦人向けの靴の製造・販売のアマガサ、東邦レマック、手芸専門店大手「トーカイ」などを展開する藤久、百貨店やブティック向けを主力に展開する婦人服の企画・製造・販売を行うラピーヌは、いずれも中価格帯の商品で勝負していますが、経営のスリム化を図っています。
一方、業界全体で先行型リストラを実施しているのが製薬業界です。中外製薬、鳥居薬品、アステラス製薬、協和キリンが、薬価改定や国外メーカーのライセンス販売終了などをにらんで人員削減に踏み切っています。この4社中3社が直近の決算で増収増益であるにもかかわらず、です。
また、今年に入り、小売業でも同様の動きが目立っています。セブン&アイ・ホールディングスは、イトーヨーカ堂とそごう・西武で合計3000人の人員削減を発表しました。今後は、セブン-イレブン・ジャパンでも実施される予定です。ファミリーマートも800名の早期退職を募集し、1025人の応募がありました。この2社の動きも、構造改革に伴う先行型リストラといっていいでしょう。
また、応募・募集人数ともに非開示ですが、45歳以上の管理職を中心に人員削減を進めているキリンホールディングスも先行型です。今後は、データ解析やマーケティング、AIやビッグデータに関する人材の採用を強化するようです。
――やはり、45歳以上が対象になりやすいのでしょうか。
二木 カシオ計算機の場合は、45歳以上の一般社員、50歳以上の管理職(国内営業部門、スタッフ部門に在籍する勤務10年以上)が募集対象者で、応募人数は156人です。同社はバブル期入社組が多く、社内の年齢構成の是正が長年の課題だったようで、いつかはリストラに着手する予定だったということです。このように、バブル時代に大量採用した社員があふれているため、全体の年齢・人員構成の見直しをしたい企業は多いと思います。
みずほ証券、三越伊勢丹HDも
――募集内容で変わった事例などはありますか。
二木 みずほ証券は1月から3月にかけて早期・希望退職者を募っていますが、「応募者がゼロでもかまわない」というスタンスです。また、応募しても半年以内に次のキャリアが決まらなかった場合は撤回することも可能といいます。同社は経営が厳しいわけではないので、先行型の最たる例といえるでしょう。
――これからの見通しを教えてください。
二木 今年に入り、すでに10社以上で実施が明らかになっており、募集人数は合計約2000人にのぼります。このうち少なくとも7社は業績が堅調で、ほぼ先行型リストラとみていいでしょう。
三越伊勢丹ホールディングスは、3月に閉店予定の新潟三越の従業員を中心に希望退職支援制度を実施します。今後も、デパートなどの小売りでは店舗の撤退や閉鎖などに伴い、同様の動きが出てくる可能性はあるでしょう。
なかには、部門ごと見直す例もあります。600人の人員削減を実施するノーリツは、6月末でシステムキッチンやシステムバス・洗面化粧台の開発・生産・販売を終了し、住設システム分野から撤退します。今後は事業領域を温水機器や厨房機器に絞り、収益力の強化と資本効率の向上を目指すようです。
19年末から20年初にかけて、決して業績が悪くない大企業のリストラ策が相次いで発表されました。一方で、5月前後には決算発表が集中するので、その内容次第では業績不振による人員削減を打ち出す企業も増えてくるでしょう。
(構成=長井雄一朗/ライター)