常に100%の完成度を目指して「仕事がデキない」人、8割でやめて大きな成果を上げる人
「仕事は常に完璧を目指さず、8割を以て旨とする」
これは私がサラリーマン時代の40年近く、ずっと長い間自分の仕事のやり方の指針にしてきたことのひとつです。「仕事は完璧に仕上げるのが当たり前だろう! それがプロというものだ」と考える人は多いと思いますが、私は決してそうは思いませんでした。
なぜそう考えるのか?
その理由は3つあります。最初の2つは常に目標を100%とし、それをやりきることの弊害、そしてもうひとつは、常に100%の力を出し切って仕事をしていることが引き起こす弊害です。では具体的な理由を見てみましょう。
(1)100%を目指すと効率が悪い
スマートフォン(スマホ)やノートPCの多くは、バッテリーを充電するのに大体1時間ぐらいで8割が完了します。そしてあとの2割を充電するために4時間くらいかかるといわれています。仕事もそれと同じで、仕事上手な人は短期間で大体8割程度をやってしまいます。そこからの2割はいわばディテールの部分なので、時間がかかる割に成果が伸びないという現象が起きてきます。私はこれを「バッテリーの法則」と呼んでいます。100%を目指すと効率が悪くなるということなのです。
逆に要領の悪い人は100%を目指す割には最初に細かい部分にこだわり、やたら時間だけが過ぎていって最後に時間切れになるということが起こりがちです。結果としては100%どころか半分もいかないという最悪のケースも起こり得ます。ひとつの仕事が80%まで行けば、次の仕事に取り掛かり、最初に集中することで、結果的にやれた仕事の総量は大きく増えることになります。
(2)思い込みに陥る
仕事というものは、なかなか完璧にできるものではありません。完璧にやったつもりでも他人から見れば、どこかに穴は存在するものです。ところが100%を目指してやり切った人(あるいはやり切ったつもりの人)は、自分が大変な思いをしてやり遂げた仕事ですから、その成果に対して思い入れが強く、人から批判されたり意見を言われたりすることを異常に嫌がります。
最悪なのは「俺の仕事の成果を正しく理解しないあいつが悪いのだ」と考えてしまうことです。でも、これは思考停止にほかなりません。自分の仕事にケチをつけられることを嫌うあまり、相手の進言を頑なに拒否してしまいがちになります。
ところが初めから80%の仕事しかしていない人は、もともと完全だとは思っていませんから、人の指摘を素直に受け入れることができます。むしろ良いアドバイスをくれたと感謝の気持ちも出てきます。当然、改善されるべきところはきちんと改善され、完成度も高くなるという好循環に入っていきます。
「批判しやがって」と反感を持たれるのと、「いいアドバイスありがとう」と感謝されるのとでは相手の感情もずいぶん違ってきますから、以後の仕事についても良い関係を築くことができるようになるはずです。
(3)余力を持って非常事態に対処できる
「火事場の馬鹿力」という言葉があるように、何か非常事態が起こった時には自分でも思いがけないような力が出ることがしばしばあります。締め切り寸前に重大なミスが見つかった時など、それこそ徹夜してでも「火事場の馬鹿力」を出して強引にやりきったといった経験は多くの人が持っていると思います。
ところがここでも、80%の力で仕事をすることの大切さが出てきます。常に余力を持ってやっていれば、いざという時には120も150もの力を出すことができます。これはいわば足が伸びきった状態でなく、少しゆとりを持って膝を曲げていることができれば、思い切りジャンプできるのと同じです。
これが常に100%の力を出していれば、緊急事態が起きても、足が伸び切った状態のままですから火事場の馬鹿力は出せません。特に管理職ほどこれは大切なのです。というのは、危機に際してリーダーの発揮する馬鹿力がしばしば組織を救うことになるからです。普段は遊んでいるように見えても危急の時には頼りになる、これが優れたリーダーだと思います。
組織で最も頼りになる人物への近道
世の中には常に100%を求めたがる上司というものがいます。「常に全力投球で行け!」という青春ドラマのヒーローみたいな実に迷惑な存在です。そして現役時代にひたすら努力と根性だけを頼りにのし上がって役員になった人ほど、そうなりがちです。私もかつてそういう上司に多く仕えてきましたが、私に言わせればそういう人は、単に精神論を振りかざしているだけでなく、組織の危機管理というものを真剣に考えていない、実に無責任な人だと思います。
仮に自分が下っ端であるとすれば、100%の力を出しているフリをしながら、常に力は80%でコントロールし、目標も80%を以て旨とすべしです。若いうちからそういう習慣を身に着けていくことが、組織で最も頼りになる人物への近道だということを知っておくべきでしょう。
(文=大江英樹/オフィス・リベルタス代表)