組織のなかで働くことには評価がつきまとう。また、ややこしいことに、ひとりの上司から高評価をもらったことで、べつの上司の嫉妬を買ってしまうこともある。
組織のなかで働く以上は逃れられない、こうした人間関係の難しさとどう向き合えばいいのか。
『壁を崩して橋を架ける 結果を出すリーダーがやっているたった1つのこと』(集英社刊)の著者であり、コンサルタントとして様々な企業の組織改革を手がけている道幸武久さんに、組織のなかで人間関係を円滑に保つためのきっかけの作り方をうかがった。
■コミュニケーションの阻害要因となる「壁」
――インタビュー前編では、クロスコミュニケーションを実現する上で、「互いの価値観を認め合うことが重要」とおっしゃっていました。それは本書に出てくる「壁」の話につながりますか。
道幸: はい、つながります。どちらかが「コンプレックスを隠したい」と思っていたり、相手の気持ちを尊重しようとしすぎて自分の気持ちを押さえこんでしまうと、相手との間に「壁」ができてしまいます。
こうなってしまうと、正常なコミュニケーションをとることができません。私のような仕事をしていると、コーチングの依頼を受けることもあるのですが、壁ができたままコーチングを取り入れたところで、まったく機能しないのです。
そこでまずは、壁を崩すことが必要になる。そして壁を崩すために欠かせないのが、互いの価値観を認めることなんです。
――本書のなかには、我慢や無理が原因でできる壁、努力や理念が原因でできる壁など、様々なタイプの壁が紹介されています。気づきにくい壁は、どのタイプですか。
道幸: 嫉妬が原因でできる壁は気づきにくいですね。実際、こんなケースがありました。
社長、副社長、課長の3人がいて、それぞれ皆、人格者。仕事もよくできる人たちでした。ちなみに社長と副社長は同世代で50代。課長はまだ30代。
社長は副社長と課長、それぞれの長所を認め等しく評価していましたが、課長は若い分、つい社長としても声をかけやすかった。
社長と課長が仲良さそうに話をしている様子がたびたび見られました。傍から見て「社長は課長に目をかけている」という印象を持たれてもおかしくない状況だったんです。
間にはさまれた副社長としては面白くなかったようで、社長の目が届かないところで、課長にものすごいプレッシャーをかけるようになり……。
冷静に考えて、ひと世代以上も下の課長が副社長のライバルになるわけはありません。でも、副社長は嫉妬心をおさえられなかった。こうして、副社長と課長との間には高い壁ができあがってしまったのです。
――そのような壁を崩すため、道幸さんはまず何をしたのですか。
道幸: 私がコンサルとして入るまで、社長はこの状況にまったく気づいていませんでした。そこで単刀直入に「いま、副社長と課長との間で、こういうことが起きていますよ」と報告することから始めました。
まずは正しく現状認識をしていただかないことには、改革も進めようがないですから。