企業の財務状況だけでなく、経営戦略や将来性まで、ありとあらゆることを読み取ることができるのが「決算報告書」である。だからこそ、貸借対照表や損益計算書、キャッシュフロー計算書を読み解く力は、ビジネスパーソンにとって大きな武器になる。
ただ、簿記や会計の勉強をするだけでは、決算書からその企業の実情を知ることはできない。座学で学ぶ理論と実践の間には、どんなことでも大きな断絶がある。
■簿記や会計を勉強しただけでは決算書を読めない
『決算書の読み方 最強の教科書 決算情報からファクトを掴む技術』(ソシム刊)は、この断絶を乗り越えるべく、実践的な決算書の読み方を解説する。あらためて言うが、決算書からは本当にいろいろな事実がわかる。たとえば、倒産リスクが高い企業なども、決算書の読み方がわかれば明らかになってしまう。
会社が倒産する時は、ひとことで言えば「キャッシュが尽きた時」だ。売り上げが減っていようが、赤字になっていようが、手元のキャッシュに余裕があったり、銀行からの借入枠が十分に残っていれば、倒産する危険は少ない。
逆もしかり。損益計算書の利益が毎期黒字でも、手元資金が少なかったり、来年の借入金の返済負担が手元資金と比べて大きかったりする場合は倒産する可能性がある。
これを踏まえると、決算書に示される企業の倒産危険サインは
1.売上高・営業利益ともに大きく減少している場合
2.短期有利子負債が現預金残高と比較して大きい場合
3.営業利益と営業CFの乖離が大きい場合
4.多額の減損損失が計上されている場合
なのだそう。もう少し詳しく見ていこう。
たとえば、株式上場したばかりの新興企業の中には、財務状況が赤字である会社も多い。これは、新興上場企業のなかにはSaaS型(Software as a Serviceの略。ソフトウェアをパッケージとして売るのではなく、ソフトウェアの機能をインターネットを通じたサービスとして提供する形態)のビジネスを展開する企業が多いことが関係している。
SaaS型のビジネスでは、事業が成熟期に入るまでは人件費や広告宣伝費、販促費等に資金をつぎ込みながら獲得し、売上高を伸ばす戦略をとるため、成長期には赤字になりやすい。現に、2019年にIPOを果たした86社のうち、15社が赤字上場だという。
だから、赤字だからといってその会社に倒産リスクがあるというわけではないのだが、もちろん中には「心配」な会社もある。これらをどう見分けていくのか。
まず、注目すべき項目は「営業によるキャッシュフロー(=会社が通常の事業活動をして稼いだお金。以下、営業CF)」と「現預金」、「資本余剰金」だ。
「キャッシュが尽きた時に企業は倒産する」を踏まえると、「営業CF」が赤字だったとしても、「現預金」や「資本余剰金」が潤沢にあれば、すぐに倒産するリスクは低く、今後しばらくは事業の成長のための投資を続けられる、と見ることができる。また、企業がかけたコストの内訳と、そのコストが業績にどう跳ね返っているかをチェックすることも、新興企業を評価するうえでは必須だ。
■粗利率に見るニトリ一人勝ちの理由
決算書からは企業の「強さ」や「勝っている理由」もわかる。
たとえば家具大手の「ニトリ」は、島忠やナフコといった競合が伸び悩むなかでも業績を伸ばし続け、「一人勝ち」状態となっている。ニトリの強さは、決算書のどこにあらわれているのだろうか。
ニトリが競合企業と比較して明らかに優れているのが、損益計算書に記載される「粗利率」だ。島忠やナフコが30%~40%で推移している一方で、ニトリの粗利率は実に50%~60%にもなる。どうしてここまで違いが出るのか。
実は、ニトリは単純な「家具の大型小売店」ではない。商品となる家具の製造や物流、そして販売までをすべて自社で完結させているのだ。そして、製造は人件費の安いベトナムで行っている。これが高い粗利率の源である。商品を他社から仕入れ、他社に物流を委託している企業と比べると、コストが圧倒的に低いのだ。
では、競合他社もニトリのように、製造拠点を海外に移し、物流も自社でやればいいのでは、となるが。これが容易ではない。製造国でのスタッフ教育や物流の最適化など、整備すべきポイントは数知れない。とてもではないが一朝一夕にできることではない。製造から小売りまでを自社内で納める確固たるノウハウを構築したことが、ニトリの最大の強みだともいえるだろう。
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「企業の優位性を把握するならこの項目を見ればいい」「M&Aの成否を評価するのはこの指標を見ればいい」というように、決算書の各項目が持つ意味を深く理解しなければ、企業の実体を示すファクトをつかむことはできない。本書はその力を身につける格好の参考書。
なぜ、メルカリは赤字でも勝負を続けられるのか
なぜ、スカイマークや江守グループは倒産したのか
なぜ、日本電産はM&Aで成功し続けたのか
など、実在する企業の決算書をひも解いて、そこに潜む事実をつまびらかにしていくため、楽しみながら読み進められるはずだ。(新刊JP編集部)
※本記事は、「新刊JP」より提供されたものです。