と、ため息交じりに語るのは、大手システム会社の人事課長、神永豊氏(仮名・38歳)だ。社会人ともなれば、”社会人キャラ”を演じるのがむしろ常識だが、彼らのキャラのつくり込み方は、そんなレベルではないという。
「その場、その場に”最適化”したキャラをつくり込んで、上っ面だけで勝負してくるので、人として信用できない。第一、素直じゃなくて、可愛くないったらありません。こんなヤツら、客先に出して通用するかどうか、今から不安ですよ」
神永氏自身、すでに”キャラ偽装”の被害にあっているという。目をかけていた新卒が、”可愛いヤツキャラ”を演じて「神永さん、ご馳走してくださいよ~」と甘えてきた時、張り切って、ちょっといい店を予約してしまったという。
「その日そいつがツイッターで、『今晩、カリスマ人事マンと有名和食店で飲みたい人、大募集中!』とかツブやいていた。要は、ダブルブッキングしてしまい、僕との約束を当日ドタキャンしたいものだから、”代打”を立てようとしていたのです。失礼極まりないですよ。後日それを責めると、今度は涙ながらに謝罪。”泣き虫キャラ”で勝負ですよ。もう、芝居臭くてウンザリです」
この事件以来、神永氏はこの男を軽く無視。すると、反撃のつもりなのか、今度はツイッターの裏アカウントで神永氏の悪口を呟きまくっているという。表面上は必要以上にナイスなのに、裏アカでは暴言吐き放題……そんなケースはほかにもある。情報関連会社で働く牧田香織さん(仮名・31歳)も、その被害者だ。
「その新人の子は、今どき珍しいほど清純でイイ子なキャラで、フェイスブックやツイッターでは『ウチの会社の先輩はみんな親切だし、福利厚生施設もこんなに充実!』なんて、よく書き込んでいました。それを読んで私も、『早く会社に馴染んでよかった』なんて思っていたんです。ところが、同僚がその子の裏アカを見つけてきた。そこには『ウチの会社、ガチ、ブラックかも』だの、『課長の誰々はコネ入社だから、A社の取引が取れているだけ』だの、『あんなヤツ、早くリストラされりゃいい』だの悪口言い放題。さすがに青ざめて、『これあなたの裏アカでしょ。上に見つかる前に削除したほうがいいよ』と注意した。そうしたら例の”イイ子キャラ”で土下座せんばかりに謝ってきたのですが、実は全然懲りてない。今後はまた別のアカウントを立てて、私のことを『超ウザいお局が私のツイッター読んでる。どんだけヒマなんだって』とか、完全”ビッチ・キャラ”。もう、何を信用したらいいかわかりません」
こうした”事件”は、もっと古い業界でも発生しているようだ。不動産開発会社の課長、横田真奈美さん(仮名・39歳)も、キャラ偽装新入社員には、振り回されっぱなしだという。
「新店舗開発のブレストの際、『あなたたちの世代に、どんな店舗が受けるのか、自由な意見を聞かせてほしい』と言ったら、マスコミでよくいわれる典型的な若者キャラでしか話さない。『私たち世代は、お金を使わないから』『結婚願望が強いから』『保守的だから』『ナチュラル系が好きだから』といった具合で、斬新な意見がひとつも出てこない。『今、アンタが求めてるのは、このキャラなんでしょ?』と言わんばかりの予定調和ぶりで、大人を舐めきっているとしか思えません」
その場、その場に”最適化”したキャラを偽装する新入社員――大人世代が口を揃えるこの現象は、なぜ起きるのか?
『大学生のための「学ぶ」技術』(主婦の友社)、『親は知らない就活の鉄則』(朝日新書)などの著書がある人事コンサルタント・常見陽平氏が解説する。
「新入社員世代は、例えばミクシィひとつとっても、閲覧用、この友達用、あの友達用と、幼い時から”多アカウント”を使いこなしてきただけに、複数キャラを使いこなすのはお手のもの。加えて就活が本当に大変だった世代なだけに、内定を取りたいあまり、企業や人事が求めるキャラを手っ取り早く演じるクセがついてしまっているのです」
その場で浮きたくない、ミスしたくない、ハズしたくないという思いが、過剰適応ともいえる”キャラ偽装”に直結しているという背景が窺える。キャラ偽装の上級者ともなると、「これからは、セルフ・ブランディングの時代っすから」なんて台詞が口癖で、「セルフ」を過剰に盛る現象も多々見受けられるという。
「『ソーシャルネットワークを介して、億単位のビジネスを続々構築中』だとか、『何十万人の学生ネットワークを束ねる』なんてキャラをアピ―ルする人も大勢いますが、大人は話半分で聞いておけばいい。『若手の自意識過剰祭りが始まった』くらいに受け流しておけばいいんですよ」(常見氏)
とはいえ、今回紹介した事例のように、大人世代が実際に被害を受けるケースも多発する中、キャラ偽装新入社員と、どう接すればいいのか?
「この世代は自分が得た情報を発信して、仲間とシェアしようとする人を無条件に尊敬する傾向が強い。若手に舐められたくなければ、とにかく情報発信することですね」(常見氏)
見たこと、体験したことを、のべつまくなし公開すれば、「いいね!」なんて言ってもらえるかもしれない。
(文=佐藤留美)