自ら考え行動し、結果を出せる社員の育成。人を育てることが出来る社員の育成。これは企業にとって最重要課題だ。
しかし、その仕組みづくりは簡単ではない。単純に育成といっても、人事制度として、目標管理、評価、処遇など様々な要素が絡み合っていく。理論だけではなかなか難しい。
そこで参考にしたいのが『経営ビジョンを実現し、社員一人ひとりが幸せになる 自創経営「人材育成」の仕組み』(日本実業出版社刊)だ。360ページの大著である本書は、22年間に500社以上で導入された「自創経営」の実践出来るノウハウをまとめた一冊である。
ここでは著者の東川広伸氏に「自創経営」とは一体何かについて、その根付かせ方について話を聞いた。
(新刊JP編集部)
■「自創経営」とは?
――『経営ビジョンを実現し、社員一人ひとりが幸せになる 自創経営「人材育成」の仕組み』についてお話を伺います。この本はどのような読者に向けて執筆されたのですか?
東川:読者層としては、まず会社の経営者がメインです。「自創経営」という人材育成の仕組みであり、人事制度を導入し、運営する最終意志決定者は経営者になりますから、最初にそういう方々に読み進めながら取り組んでいただきたい。
ただ、この仕組みに取り組むのは社長だけではありません。全社員が取り組んでこそ機能するものですから、社員の皆さんにも読んで実践してほしい。つまり、全てのビジネスマンが読者ターゲットとなる一冊なんです。
――読ませていただくと、前半は経営者向け、後半は経営者だけではなくリーダー層や一般社員層向けと、全方位に学びがある一冊だと感じました。
東川:ありがとうございます。また、一度読んで終わりではなく、何度読んでも気づきがあるような本にしたつもりですので、何度も読んで実践を重ねていってもらえればうれしいです。
――東川さんの提唱する「自創経営」とはどんな経営なのでしょうか。
東川:「自創」は造語です。そして、この「自創」という言葉の中には、「自」分の将来の生活を「創」る主体者は自分だという自覚を持った社員を育成するという意味を込めています。
働く人それぞれが自分の働く理由を持っていると思いますが、生活のため、お金のためといった、今の生活を維持するという理由だけでなく、自分の将来の生活をより豊かにするために働くという理由もあると思うんです。
「自創経営」は個々の社員が自分の未来を創るための仕組みです。言い方を変えると、セルフマネジメントが出来る人を育成する仕組みとでもいいましょうか。自分自身の未来に向かって主体的に動いていける人として、自ら成長し続け、活躍し続ける経営が「自創経営」ということですね。
――セルフマネジメントの出来る人とはどんな人のことでしょうか?
東川:自ら考え行動し、より良い結果を出すことが出来る人と言っていいでしょう。言い換えれば、出すべき結果を自ら明らかにし、その結果を出すために主体的に行動する人はセルフマネジメントが出来ているといえます。ほとんどの人は、手段や方法ばかりを考えて思いつけば動いてしまいますけど、そうではないんです。これからの出すべき結果をまず決めることが重要です。
――結果の見据え方が分からない、想像出来ないという人もいると思います。そういう人はどうすればいいのでしょうか。
東川:それはおそらく体験不足が大きいのだと思います。うまく出来たといえる状態を実際に体験していないから、出すべき結果をイメージできない。だから、まずは上司や先輩が実行し、より良い結果を出す姿を見せていき、理解を深めながら実践を積み重ねてもらうことが大事ではないでしょうか。
そういう意味でも部下・後輩の育成で必要なものの一つは成功体験です。成功している状態とはこうということだという状態を見せる。ティーチングという教育手法から始めることが大事ですね。
――なるほど。お話を「自創経営」に戻しまして、これは人材育成の仕組みという風に考えてよいのでしょうか?
東川:そうです。仕組み、制度、システム、いろいろな言い方ができますが、意味合いとしては一緒です。まずは人材育成のための目標管理の仕組みがあり、その上で評価の仕組み、処遇の仕組みがある。いわゆる給与・報酬制度ですね。さらに昇格・昇進の仕組み、異動・配置転換の仕組み、そして採用・教育の仕組み。この6つの仕組み・制度が一気通貫で連動している人材育成のための人事制度が「自創経営」なのです。
この制度を会社に導入していただき、社員のセルフマネジメント力を高めていくと同時に全社員が人の育成マネジメント力を高めることで強い会社に成長していくわけです。
――人事制度と育成をワンセットでやっていくことが大事なんですね。
東川:はい。目標管理制度だけ、評価制度だけ、賃金制度だけと、ばらばらに機能させるのではなく、それらをすべて連動させないと、社員の成長、ひいては会社の成長のために機能しづらくなるということです。
――この制度を会社に取り入れる上で、推進役としての社長の役割は大きいですよね。その点でも、社長はこの本を最初から最後まで読むべきだと思いますが。
東川:そうなんです。本当はこの本を2冊に分けてもよかったんです。1冊を社長・幹部編、2冊目に社員編という風にね。ただ、そう切り分けてしまうと社長や幹部は2冊目を読まないでしょう(笑)。だから第1章から第4章までは社長および幹部に、5章以降は社長をはじめ全社員に読んでいただきたいと1冊にまとめて書いているんです。
特に、セルフマネジメントの出来る人に成長し、同時に人の育成マネジメントが出来る社員へと成長する必要性を全社員によく理解してもらうことが重要です。
もちろん、その前提として社長がこの本の全容を理解することはとても大切です。仕組みやツールは何のために取り入れるのかという目的と、いつまでにどうなっていればいいのかというねらいを全社員へと説明し、納得を取り付ける役割が社長にはありますから。
この本では、人材育成のための目標管理に取り組むにあたり、チャレンジシートと、ランクUPノートという主に2つのツールを紹介しています。500社以上の会社に導入していただいている中で、自分の目標とその道筋を明らかにするために書くはずなのに、書くこと自体が目的化してしまっている会社もあるんです。つまり、外していけない部分を外してしまっている会社がある。それは社長をはじめとした幹部・管理職、そして全社員がしっかり目的の上に書いていくということをしないと、自ら考えて動き結果を出す社員に成長しないわけです。
――なるほど。
東川:ただ最初からいきなり上手くいくことはありませんので、出来るまでやるというブレない信念を持って人材育成の仕組みづくりに取り組んでいただきたいです。
この自創経営による人材育成の仕組みを取り入れて上手くいっている会社さんは、社長がブレないこと、そして社員に対して成長をしてほしい、幸せになってほしいという期待や願いを常に伝え続けていくことが大切です。
――ただ、推進するためにもちろん社長の言葉も必要ですが、それだけでは周知徹底させるのは難しいそうです。
東川:そうですね。だから、自創経営を推進する責任者を一人置いてほしいです。実際に社内で社員の育成体制づくり、土壌づくり、風土づくり、そして人が育つ文化として根付くまで、誰か一人、責任者としてチャレンジシートやランクUPノートが正しく活用されているのか、成長対話が適宜行われているのかというチェックし、フォローする人がいることが、成功を左右するでしょう。
――トップダウンの方が、自創経営は根付くのでしょうか。
東川:最初はトップダウンでスタートする形が多いですね。ただ、人が育つ体制づくりからはじめ、土壌が出来てきたら、現場からのボトムアップで進めていく。この仕組みづくりには、導入段階、定着段階、運営段階と3つの段階に分かれると思いますが、まずはトップダウンで導入しはじめて定着をさせていく。会社によってはそれだけで3~4年かかることもあると思います。
ただ、社員一人ひとりが本来の目的である成長という変化をするんだという認識を持って取り組まなければ、マンネリ化してしまうこともあります。だから、社員のわずかな成長という変化を見逃さずに喜んであげてほしいのです。最終的には毎年昇格に見合う社員の育成が出来て、報酬も上がったという社員を一人でもいいから輩出することが出来るまで取り組み続け、取り組み方を改善していけば、本当の意味で定着段階から運営段階へ進んでいけるのだと思います。
――確かに制度の定着は時間がかかり、その間にダレてしまうことは多いですからね。
東川:すぐに上手く運営出来る人材育成の制度や社員が育つ文化が根付くなんてことはありません。だから、社長や幹部は覚悟を決め、腰を据えてじっくり取り組んでほしいですね。
※本記事は、「新刊JP」より提供されたものです。