高齢化が進む日本社会において、「何歳まで働くか」「何歳まで働くことができるか」は個人にとって大きな問題であると同時に、その受け皿となる企業にとっても無視できない問題になっている。
その大きな転換点が2021年4月にやってくる。「高年齢者等の雇用の安定等に関する法律」の改正法が施行され、65歳から70歳までの高年齢者の就業確保について
・定年引き上げ
・継続雇用制度の導入
・定年廃止
・労使で同意した上での雇用以外の措置(継続的に業務委託する制度、社会貢献活動に継続的に従事できる制度)
のいずれかの措置を講ずることが企業の努力義務になるのだ。
ところが、国内企業のシニア人材活用は、60歳から65歳への定年延長ですら、実践しているのは2割ほどと、ほとんど進んでいないのが現状だ。その状態でも政府はシニア雇用を推進しているため、人件費負担や健康管理、人材の活用方法など、企業の負担は増えるばかりである。
■今後必須になるシニア再雇用 企業が注意すべき3つのこと
『人手不足を円満解決現状分析から始めるシニア再雇用・定年延長』(第一法規刊)の著者で、中小企業の人事制度構築・改善のコンサルティングを手がける森中謙介氏は、シニア人材の活用について、「これまでの10年はどの企業も“横並び”だったが、これからの5年で差がつく」としている。
政府サイドからのシニア人材活用の推進に企業の取り組みが追いついていない現状の一方で、人手不足に苦しむ企業は多い。シニア層をいかに社に残し、取り込んでいくかは、会社の存続や業績に関わる問題でもある。
実際、独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構が実施した、企業を対象とした近年のアンケートによると、高年齢者等の雇用の安定等に関する法律の定める雇用確保義務年齢である65歳を超えて、70歳まで、あるいは70歳を超えても活用したいという声が全体の42.2%を占めている。
これらを踏まえると、シニア人材の活用を必要と考えてはいるが、会社としてどのような取り組みをすればいいのかがわからない、というのが多くの企業の本音なのかもしれない。というのも、企業としてシニア人材の雇用を制度化するとなると
・同一労働同一賃金への対応…定年後に継続雇用するシニアは通常、1年ごとに契約更新する非正規社員であり、正社員との比較で同一労働同一賃金の対象になるため、自社の賃金制度が法律に合致しているかどうかの確認が必要になる。
・公的給付の減額…2025年から特別支給の老齢厚生年金の支給開始年齢が65歳(女性は2030年から)となる。以後、60歳からの5年間の勤務期間中は支給されないこととなるため、この年代の労働者の収入源の一つが失われる(=企業側が賃上げをして補填することを迫られる可能性がある)。また、高年齢者雇用継続給付が2025年に60歳に到達する労働者から段階的に縮小される。
・高年法改正への対応(70歳までの就業機会の確保)…冒頭の「高年齢者等の雇用の安定等に関する法律」は努力義務だが、今後70歳までの雇用確保措置の義務化や完全65歳定年の法制化も議論される流れにある。
など、考慮・対応しなければならない点は多い。企業にとっては、自社の現状分析がシニア人材活用のための制度づくりの「はじめの一歩」となる。
本書では、この点について「人員」「賃金・人件費」「シニアの環境」の面から現状分析を進める、シニア人材活用のための制度づくりの手法を豊富な実例を交えてわかりやすく解説。自社の状況に近い企業の例を参考に、一から手順を追って制度設計を進めることができるのが特徴だ。
シニア雇用は、法制度化によってどの企業にとっても他人事ではないだけでなく、企業が人員不足を解消し業績を伸ばすチャンスでもある。今のうちに知識を得ておいて損はない。本書はそのために大いに役立ってくれるはずだ。
(新刊JP編集部)
※本記事は、「新刊JP」より提供されたものです。