ITプロジェクトの71%は遅延し、その19%は頓挫する
今やビジネスの現場でITは欠かせない存在だ。経理や基幹業務など、ビジネスはさまざまなシステムに支えられている。組織が大きくなればなるほどシステムは複雑化し、やがて組織の大きさや戦略に合わせたシステムへ発展・修正することを余儀なくされる。
多くのシステムと連携し、より大規模に、高度で複雑なものにITプロジェクトを発展させる。そうした大規模ITプロジェクトをマネジメントし、計画通りにITプロジェクトを進行させることは実に困難なことだ。
ある調査では、ITプロジェクトのうち、71%が納期遅延や品質上の問題を抱えており、そのうちの19%が中止に追い込まれているという。
万全の計画で臨んだはずなのに、問題が発生してITプロジェクトの遅延が起きる――。ITプロジェクトの失敗や頓挫は、多額の費用、ビジネス上の機会損失、市場における競争優位の低下など、さまざまな問題を生み出す。それは、プロジェクトマネジャーたちの永遠の課題だ。
しかし、理論次第では対応できないわけではない。プロジェクトの遅延をなくすどころか、工期の短縮も可能なマネジメント理論が存在するのだ。
プロマネたちの救世主となるその理論の名前は「CCPM(※ CCPM = Critical Chain Project Management)理論」。「CCPM理論」とは、世界で250万部以上の売上を誇るビジネス書の名著『ザ・ゴール』の著者、エリヤフ・M・ゴールドラット博士が提唱したTOC(制約理論)に基づくマネジメント理論だ。さまざまな制約条件の中でいかにして全体最適を実現するのかをプロジェクトにフォーカスして理論化したものである。
大手IT企業でエンジニア、そしてプロマネとしての経験をもつ著者が、TOCおよびCCPM理論の提唱者であるゴールドラット博士に薫陶を受け、生まれたのが『進む!助け合える!WA(和)のプロジェクトマネジメント』(宮田一雄著、ダイヤモンド社刊)だ。
プロジェクトマネジメントの「落とし穴」
ITプロジェクトにおける遅延の発生は、特に珍しいことではない。だが、プロジェクトが恒常的に遅れてしまうのは、一体なぜなのだろうか?
CCPM理論では、その理由の一つに人間心理、あるいは人間の行動特性があると考える。「パーキンソンの法則」、「学生症候群」といった言葉を聞いたことがある人も多いだろう。
「パーキンソンの法則」とは、仕事の量は完成のために与えられた時間をすべて満たすまで膨張する、という人間の行動特性のこと。そして「学生症候群」とは、納期のある作業では、時間的に余裕があるほど、作業を開始する時期が後ろ倒しにしてしまう、という人間心理のことだ。
スケジュールが遅れる理由として「計画は完璧。それでも遅れるのは、個々のタスクの遅れが原因だ」と考える人は少なくない。ところが、余裕をもって計画を立てても、プロジェクトメンバーのこうした人間心理と行動特性が大きな落とし穴となってしまう。 プロジェクトを始めるに際して、こうした人間心理や行動特性を考慮せず、「完璧なスケジュールだから計画通りにできるはず」と考えるのが、そもそもの間違いなのだ。
さらに著者は、ITプロジェクトが持つ制約や問題として、下記の3つを挙げている。
1.QCD(Quality:品質、Cost:予算、Delivery:納期)という制約の矛盾
2.的確な優先順位がつけられない
3.かけた工数ではITプロジェクトの進捗は計れない
QCDを守ることは、どんなITプロジェクトでも重要なことだ。しかし、QCDのいずれか一つが固定化されると、残り二つの要素に制約が生じてITプロジェクトの不確実性が高まる。予算と納期が決まっていれば、品質が制約を受けるのは、想像に難くないだろう。
的確な優先順位の判断も難しい。ITプロジェクトの規模が大きくなるほど、全体像の把握は困難になり、プロマネにはどの課題も重要であるかのように思えてしまうのだ。
そして、ITプロジェクトには、要件定義、基本設計、詳細設計、製造・単体テスト、結合テスト、システムテストなど、さまざまな工程がある。これらの進捗は、費やされた工数という十把一絡げの指標だけでは計れない。
この3つの問題も、プロジェクトが遅延する原因であると著者は述べている。
発想を転換する「CCPM理論」
「CCPM理論」は、目標への到達を妨げる要因(=制約条件)に注目し、それを活用することによって少ない労力で最大限の成果を得るというTOCの考え方を基に、プロジェクトの最適なマネジメントを実現する。
そのために、やるべきことは次の5つだ。
1.マルチタスクを排除する
2.クリティカルチェーンによるマネジメント
3.個々のタスクからバッファ(安全余裕)を取り出す
4.バッファの消費状況で、プロジェクトを管理する
5.フルキットの状態にして、タスクに取り掛かる
これらの手法の詳細は、本書を読んで理解していただきたいところだが、驚くべきはその結果だ。本書では、このCCPM理論をもとに、大規模なITプロジェクトを手がけた大手企業の事例が、ドキュメンタリータッチで綴られている。
さまざまな苦難に満ちたこの大手企業のプロジェクトは、「実現化フェーズ」で計画の90日を65日に短縮。「テスト・移行フェーズ」では144日の計画を107日まで短縮した。
しかも、CCPM理論を導入してからは、平均残業時間が半減した上、休日出勤をしたメンバーもほとんどいなかったという。
この理論は、プロジェクトマネジメントを手がける人たちにとっては、一見すると天地をひっくり返すような発想だ。しかし、その成果は確かなものである。一読して損をすることは決してないだろう。
(新刊JP編集部:大村 佑介)
※本記事は、「新刊JP」より提供されたものです。