自分の特技や知識を生かした“○○芸人”が増えている中、コーヒー芸人として活躍の場を広げているのが、松竹芸能所属のコーヒールンバの平岡佐智男だ。コンビ芸人として活動するかたわら、『マツコの知らない世界』(TBS系)や『ワケあり!レッドゾーン』(読売テレビ)などの番組で、ちょっとディープなコーヒーの世界を紹介している。
過去にタリーズコーヒーの店長を務めていた経験もあり、コーヒーの知識や技術は本物。「SACHIOPIA COFFEE」という自身のコーヒーブランドを運営していたり、スペシャルティ・コーヒー専門店「猿田彦珈琲」の広報を務めていたりと、幅広く活躍している。
新型コロナの影響で芸人としての活動が制限されてしまっている今、副業に力を入れるのも自然なことなのだろうが、○○芸人たちは、なぜ芸人を辞めて副業を本業にしないのか? 前編に続き、本業と副業に対する考え方や力の入れ方の違いなどを聞いてみた。
なぜお笑い芸人が猿田彦珈琲の広報に?
――SACHIOPIA COFFEEは、どういった経緯で始めたんですか?
コーヒールンバ・平岡佐智男(以下、平岡) もともと、僕が通っていたお店だったんです。深夜の3時くらいまで営業していて、そこで台本を読んだりコーヒーの勉強をしたりしているうちにマスターと仲良くなって、「一緒にイベントやろうよ」っていう話になって、不定期でSACHIOPIA COFFEEを開くようになりました。
SACHIOPIA COFFEEをやると決めたのは、単純に口だけじゃないってことを証明したかったからです。オススメしているコーヒーを実際に飲んでもらって、スイーツとあわせて楽しんでもらえてこそ、本気でコーヒー芸人をしているんだと思ってもらえると考えていたので。
でも、実際にやってみたら、まぁ大変でした。コーヒー4種類にスイーツが2~3種類にカレーが1種類。フードは毎月、内容を変えていました。ありがたいことに、お客様がたくさんいらっしゃってうれしかったのですが、てんやわんやすぎて、はじめの頃は「ネタ考えてる方が楽だなー」って何回も思いましたね(笑)。
――では、猿田彦珈琲の広報を務めることになった経緯は?
平岡 実は、3年ほど前にインスタグラムに履歴書と一緒に「どなたか雇ってください」ってアップしたら、最初に猿田彦珈琲さんが連絡をくれたんです。それから、恵比寿本店で店舗スタッフとして働いていました。そして、昨年の夏ぐらいに社長に呼ばれて「広報をやってみないか?」と言われたので、店舗スタッフを卒業して広報として働くことになりました。
業務内容は、電話やメールの対応・取材の立ち合い・プレスリリース作成などいろいろありますが、芸人の世界では経験しないことばかりなので、めちゃくちゃ楽しいですね。それと同時に、コーヒールンバのマネージャーさんの仕事の大変さがわかって、今までの自分の行いを反省しました。今では「ありがとうございます」など感謝の言葉、業務へのねぎらいの言葉を都度、伝えるようになりました。
芸人としての活動は続けていいし、SACHIOPIA COFFEEも辞めなくていいとおっしゃっていただき、松竹芸能としても、猿田彦珈琲で広報をすることも、それを公表することも問題ないということで、すべてがうまいこと合致したんですね。どちらも懐の深い会社で、本当に恵まれていると思います。相乗効果で、芸人としてコーヒーがらみの仕事をいただく機会も増えました。
「副業」ではなく「マルチステージ」
――そうなると、どちらが本業でどちらが副業か、とは分けがたいですね。
平岡 お笑いの門を叩いて今ここにいるので、基本的には芸人ではあるんですが、今やっている仕事で多い方を本業と言うならコーヒーの方ですし……。
ブレンドコーヒーと同じで、本業・副業と分けずに、2つを合わせてよりおいしくなるように、仕事のやり方をデザインした方がいいと思っています。普段から仲良くしてくださっているEXILE・TETSUYAさんの「マルチステージでがんばってる」っていう言葉の影響ですね。
TETSUYAさん自身が、EXILEの他にカフェのプロデュースだったり、少し前まで大学院に通っていたり、ダンスの教育にも興味があったりと、いろいろやられているんですね。その根本にはひとつの想いがあって、すべてそこから派生しているそうです。生活費を稼ぐためにサブで副業をするのではなく、ひとつの想いを持った上で、芸人や猿田彦珈琲の広報などのマルチなステージでがんばってるんだって思うと、ちょっとカッコ良くないですか?(笑)
――かっこいいですね(笑)。マルチステージで活動していて、良かったことはありますか?
平岡 2年前から、猿田彦珈琲に協力してもらって、僕が監修したコーヒー豆などを売るオンラインショップを個人でやっているんですが、コロナで売り上げが2倍ぐらいに跳ね上がりました。なので、芸人としての仕事が全部なくなってもなんとか暮らせました。これがなかったら大変だったと思います。
以前、芸人の他にオンラインショップやYouTubeなど、合計6本のマルチステージを走らせようと思っていろいろやっていたんですが、それが自然と集約されていって、太い柱に成長したって感じですね。
その柱の1本がバイトだったとしても、マルチステージになるのならいいと思います。事務所の後輩の「山田BODY」というストレッチ芸人は、お笑いの他にコンビニでバイトしていたんですが、ある先輩から「コンビニもいいけど、自分の活動につながるバイトの方がいいんじゃないか」と言われて、ストレッチジムでバイトを始めたんです。そうしたら人気のパーソナルトレーナーになって、独立して自分のジムを開いたり、本を出版したりして、見事にマルチステージで花を咲かせたんですよ!
今、コロナで働き方が変わって、仕事に対する価値観も変わっていると思いますが、それは芸人の世界でも同じです。「副業」というと「空いた時間にやっている」「大変そう」といったマイナスなイメージで見られがちですが、「マルチステージ」なら「自分の好きなことでちゃんと稼いでいる」っていうプラスなイメージになると思います。
これからマルチステージでがんばっていきたいと思う人たちに対して、どうやったら自分なりのマルチステージを見つけて、花を咲かせることができるのか。それを伝えることが、僕の新たなステージになるのかもしれません。
(構成=安倍川モチ子/フリーライター)