「女性がたくさん入っている理事会は時間がかかる」との発言が国際的に批判されたことを受けて、東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会の森喜朗会長が辞任に追い込まれた。女性の話が本当に長いかどうかはさておき、謝罪会見で森氏が「私も長い方です」と認めていた通り、男性でも話が長い人はいるだろう。
では、そもそも話が長い人はどうすれば相手に伝わりやすくなるのだろうか。話し方教室を主宰するAさんに、ビジネスパーソンに役立つ話し方のコツについて聞いてみた。
重要な“たとえ話&数字”
「まず、話が長い人には(1)言いたいことがはっきりしない(2)人前で話し慣れていない(3)自分の言葉に酔ってしまう、などの要因があります。それらを回避するため、自分は何を伝えたいのか、事前に紙に記してみましょう。
よく言われますが、基本中の基本は『5W1H』を意識することです。たとえば、取引先とのトラブルを報告する場合など、いつ(When)、誰が(Who)、何を(What)、どこで(Where)、なぜ(Why)、どのように(How)を伝えることが重要となります。いつどこでどのようなトラブルがあり、なぜ起こったか、どのように対処するか、を簡潔に伝えます。
このうちひとつでも伝え忘れると、『なぜトラブルが起きたのか』などと質問され、結果的に会議が長引きます。そして、質問に答える際も『商品を届ける予定日が間違っていた』ではなく、『商品を3日に届ける予定が5日に遅れた』というふうに、抽象的ではなく具体性を意識することが大切です。参加者が複数いる場合は一人ひとりの目を見つめながら数秒ごとに全員と視線を合わせると、参加者の『聞く意識』も高まります」(Aさん)
また、会議の際に重要なのが「簡単なたとえ話」だという。
「コロナ禍で職を失った人のために、格安で食材を配る企画を実施した会社があります。同社の会議で、リーダーが『街のお弁当屋さんが、コロナで職を失った人に無料で弁当を提供しています。私たちも、今は利益重視ではなく、お客さんを増やしていく時期です』と言ったところ、その企画の意義やイメージをすぐに担当者と共有することができたそうです。このように、他社のやり方などを例にすると、イメージが伝わりやすくなります」(同)
そこで重要なのは、誰でもわかるたとえ話をすることだ。「プロ野球チームが無償で」などと自分の好きなジャンルでたとえるより、同業他社を例にした方がわかりやすくなるという。さらに伝わりやすいのは、数字を混ぜることだ。
「『B社が宅配サービスを始めたところ、売り上げは3割増えたそうです。顧客の8割が満足した、と回答しています』などと伝えると、プロジェクトの意義や効果もわかりやすくなります」(同)
また、相手が知らない内容については、短く具体的に話すべきだという。
「新たな部署に異動して自己紹介をする際、『はじめまして、入社5年になる前田と申します。以前は広報部にいました』と語るより、もう少し具体的に『広報部では、主にCM制作会社と内容の打ち合わせをしていました』と話すと、よりわかりやすくなるでしょう。
また、『前田と申します』の後に間を置いて『以前は広報部に~』と話すなど、文と文の区切りを間でつくることも大事です。自己紹介の後、『この部署では~』などと話題が変わる際は、間を少し長くすることで、相手に話が変わる瞬間だということが伝わります」(同)
会議で使える“伝え方のテク”
会議の席で特定の人物にお願いをする際も、ちょっとした前置きが重要になる。
「『山田さん、お願いがあります』と始めるのではなく『山田さん、以前のあなたの対応には大変助けられました。そんな山田さんだからこそ、お願いがあります』と簡潔な前置きを入れると、他の参加者の山田さんに対する見方も上がりますし、言われた山田さんの満足度も高まります。これぞ“乗せ上手”な話し方です」(同)
また、会議の結果について「どうだった?」と聞かれた際は、結論から話すと伝わりやすい。
「『いい感じでした』『今ひとつでした』と結論を先に言ってから、そう感じるまでの過程を話すと、上手に伝わります」(同)
Aさんは最後に、話し方の基本はニュースで学ぶべきだと締めてくれた。
「ニュース番組でアナウンサーの伝え方を聞いていると、余計な言葉がほとんどないことに気づかされます。1分足らずのニュースを聞きながら簡潔な伝え方を学ぶのも、ひとつの方法です」
男女関係なく、相手に伝わりやすい話し方は必須のビジネススキルといっていいだろう。
(文=井山良介/経済ライター)