いわゆる「モンスター」型のトラブルメーカー、愚痴や自虐ばかりで扱いに困る人……。このような厄介な人に対し、「1.ミスをしない」「2.仕掛け人の否定的な気持ちに反応しない」「3.大人の対応を心掛けて事実を告げる」「4.ゲームの場から離れる」の4つのコマンドで対処しよう、と提唱するユニークな書籍『イヤな人間関係から抜け出す本』(あさ出版/高品孝之)。著者の高品氏に、「モンスター型」「自虐型」の人たちの共通点や対処法について聞いた。
厄介な人に共通する「ラケット感情」とは
――本書は人間関係のトラブルに対し、「1.ミスをしない」「2.仕掛け人の否定的な気持ちに反応しない」「3.大人の対応を心掛けて事実を告げる」「4.ゲームの場から離れる」の4つのコマンドのうち、状況に応じ最も適切なものを選ぶ、というロールプレイングゲームのようなユニークな本ですね。なぜ、人間関係をコマンドで対処しようと思われたのでしょうか。
高品孝之氏(以下、高品) これは、心理学における「交流分析」という手法を用いたものです。私は高校教師をしているのですが、勉強を教えるだけではなく、元気の良い生徒やクレームの多い親など、多くのことに対応しなければなりません。そうした難しい場面で4つのコマンドを状況に応じて活用することで、問題の本質を見極め、トラブルを最小限に抑えたり回避したりするなど、相手に合わせた対応ができるようになりました。
――本書では、いわゆる「モンスター」系のわかりやすく攻撃的な厄介な人だけでなく、愚痴や自虐ばかりこぼすので対処に困り、こちらの反応によっては拗ねてしまう、非攻撃的な厄介な人も紹介されています。攻撃的な厄介な人と非攻撃的な人の違いについて教えてください。
高品 基本的な対人関係の態度が「自分がOK、相手がOKでない人」が「モンスター」系の人ですね。そして「自分がOKでなく、相手がOK」の場合は、自虐的な人です。この態度のことを「基本的構え」と交流分析では言いますが、基本的構えは乳児期に母親を信頼できるか、そうでないかで決まってきます。心から信頼できる母親のもとで育つと「自分がOK、他人がOK」の、いわゆる厄介ではない人になります。
――逆に「モンスター系」と「自虐的な人」に共通点はありますか?
高品 はい。その前に、前提となる「ラケット感情」について触れたいと思います。交流分析においては、感情を「本物の感情」と、他人をコントロールするために使う「ラケット感情」の2つに分けて考えます。おもちゃがほしい子どもが癇癪を起こすのは、親におもちゃを買わせようとする、親をコントロールするために使われる「ラケット感情」と交流分析ではとらえます。
交流分析において「本物の感情」とは、周りをコントロールするためではなく、自身のために使われる「怒り」「悲しみ」「喜び」「怯え」の感情のことです。
――なるほど、「モンスター」も「自虐」の人も、攻撃を受けてくれる被害者や、自虐を聞いてくれる人の存在がいないと成り立たないので、ラケット感情を使っている人と言えますね。
高品 はい。どちらも、自分たちの基本的構えに沿って、自分たちが持つラケット感情を実現するために周りを巻き込んでいく姿勢が共通しています。
――モンスターも自虐の人も、「厄介な人」は自分が加害側という認識はあまりなく、むしろ自分は被害者だ、という意識が強い人が多いように思えます。
高品 その通りです。厄介な人が抱える強い「被害者意識」が周囲を巻き込んでいくのです。
自分が嫌いな人は、実は「自分の影」?
――できれば避けたい厄介な人との付き合いですが、逆に厄介な人との付き合いで得られることはあるのでしょうか? 私自身は、厄介な人は面倒なので「逃げる、避ける」ばかり選択しがちなのですが、対処することで得られることはありますか?
高品 自分がとても「嫌だ」と感じる人を、ユング心理学では「自分の影」と捉えます。自分が心の奥に押し込めている、意識しない自分の一部ということです。影と付き合うことで、気づかぬうちに心に押し込めていた自分を知ることができ、それによって自分がより成長するという考えもあります。
ですが、いじめやハラスメントをする人と付き合うことは、場合によっては命を失うことになりかねません。その場合は「逃げる」が望ましいと思います。本書における「ゲームの場から離れる」のコマンドです。無理して付き合って自分が成長していくのを望むか、そうではなく、気軽に生きる自分の人生を選ぶかは、考え方次第だと思います。
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後編では、引き続き高品氏に、モンスターや自虐の人ほど厄介ではないものの、これまた手ごわい「話の長い人」への効果的なアプローチについてうかがう。
(構成=石徹白未亜/ライター)