「競争社会」と聞くと、多くの人は「他人を蹴落とす」「弱肉強食」「格差」など、ネガティブなイメージをもつだろう。受験や就職活動や仕事も、同じ世代の学生や同期社員との「競争」だと思うとゲンナリしてしまうかもしれない。
しかし、勉学や就活、職場での「競争」にはメリットがある。
競争に身を置くと厳しく辛い状況が生まれる反面、競争があることで自分が本当に活躍できる場を見つけられる確率が高まる。つまり、「競争」は、自分の強みを発見するためのシステムだと考えることもできるのだ。
このような視点で「競争」をとらえ、経済学、行動経済学の観点から「競争社会」を考えるヒントを与えてくれる一冊が『競争社会の歩き方 – 自分の「強み」を見つけるには』(大竹 文雄著、中央公論新社刊)だ。
本書では、「チケット転売」「落語」などの身近なものから、「格差問題」「女性活躍社会」などの社会的なものまで、硬軟織り交ぜたテーマを経済学でわかりやすく解説したエッセイになっている。
■家電量販店の「価格対抗広告」にはウラがある?
よく家電量販店で「他店より高ければ値引きします!」といった文句の広告を見かける。普通なら、「安い価格で品物を売る消費者に寄りそった店だ」と思うものだ。
しかし、経済学者はこの広告を「競合店に対して価格競争をやめるように呼びかけている」と解釈するという。
こうした「他店価格対抗」の広告には、競合店の価格戦略を変更させる効果がある。
たとえば、同じ地域にA店とB店というライバル店があるとする。B店がより安い価格で商品を売り出せば、A店から顧客を奪い利潤を増やせるだろう。
しかし、A店が「他店価格対抗」の広告を打つとどうなるか? B店が価格を下げても、A店がその価格に対抗するため、B店はA店から顧客を奪えず、仮に価格を下げても利潤が減るだけで終わってしまう。
つまり、「他店価格対抗」という広告のウラには、ライバル店に対しての「価格競争をするな」というメッセージがあり、「もし価格競争を仕掛けたら、お互い損をするように罰を与える」ものなのだ。
一見するとわからないが、競争をしているようで、実は競争を抑制していることが経済学者の目には見えているのである。
■選挙のカギになる「中位投票者定理」とは?
衆議院解散にともなう「選挙」が連日話題になっている昨今だが、「選挙」も有権者の支持を集めるための「競争」だと捉えることができる。
選挙には「中位投票者定理」と呼ばれるものがある。「中位者」というのは、特定の政策課題について強い賛成の人から強い反対の人までを並べた際、順位が全体の50%目にあたる人のことだ。
この「中位者」が投票してくれるような政策を提案できれば、過半数を取ることができるので当選する。小選挙区制だと当選者は各選挙区で1人なので、特に「中位投票者」の争奪戦がカギになるのだ。
日本における年齢の中位数は50代半ばと言われている。すると、その年代の人にウケる政策を唱えると当選する可能性が高くなる。また中位投票者に特定のバイアス(偏り、先入観)があれば、政治家はそれを狙ったアピールをしてくる。
政治家の主張や演説を「中位投票者」狙いのものかどうかを吟味しながら耳を傾けてみると、合理的な判断の役に立つかもしれない。
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日常から社会的な物事まで、経済学的観点で切り取ると違った側面が見えてくる。本書はネガティブなイメージの「競争社会」を見つめ直すヒントを与えてくれるだろう。
(ライター:大村佑介)
※本記事は、「新刊JP」より提供されたものです。